こちら も 抜か ねば 無作法 という もの ネタ。 ニコニコ大百科: 「日常会話に使える鬼滅の刃の台詞集」について語るスレ 211番目から30個の書き込み

日常会話に使える鬼滅の刃の台詞集とは (ニチジョウカイワニツカエルキメツノヤイバノセリフシュウとは) [単語記事]

こちら も 抜か ねば 無作法 という もの ネタ

晩秋 ( おそあき )の晴れた 一日 ( ひとひ )が、いつか 黄昏 ( たそが )れて、ほんのりと空を染めていた 夕映 ( ゆうばえ ) [#ルビの「ゆうばえ」は底本では「ゆえばえ」]も、だんだんに 淡 ( うす )れて行く頃だ。 静かだとはいっても、暮れ切れぬ駒形通り、相当人の往き来があるが、中でも、 妙齢 ( としごろ )の娘たちは、だしぬけに咲き出したような、この 優 ( やさ )すがたを見のがそう 筈 ( はず )がない。 ほ、ほ、ほ」 「いやだ、あんた、もう 贔屓 ( ひいき )になってしまったの」 二人の娘は、笑って、お互に 袂 ( たもと )で 撲 ( ぶ )つまねをしながら、去ってしまった。 思いがけなく、銀杏の蔭から声を掛けるものがあったのである。 「これ、大願。 そこには、小さい組み立ての机、 筮竹 ( ぜいちく )、 算木 ( さんぎ )で暮す、 編笠 ( あみがさ )の下から、白い 髯 ( ひげ )だけ見せた老人が、これから、商売道具を並べ立てようとしているのであった。 相手の寿命ということも考えねばならぬ」 「えッ! 相手の寿命?」 女形は、低く、激しく叫んだ。 彼の、 剃 ( そ )り 痕 ( あと )の青い眉根がきゅッと釣って、美しい瞳が 険 ( けわ )しくきらめいた。 呪 ( のろ )わしや。 なれど、死ねぬ、死ねぬ。 細長い指が、 顎 ( あご )の 紐 ( ひも )を解くと、白髯ばかり見えていた、易者の面相が、すっかり現れる。 すっかり 禿 ( は )げ上った白髪を総髪に垂らして、 額 ( ひたい )に年の波、鼻 隆 ( たか )く、 褪 ( あ )せた 唇元 ( くちもと )に、和らぎのある、上品な、六十あまりの老人だ。 じーっと、穴のあくほど、みつめる 女形 ( おやま )。 老人の顔が、何とも言えず、懐しげな、やさしげな微笑の皺で充たされると、はじめて思い出したように、 「お、あなたさまは、 孤軒 ( こけん )先生!」 「ウム、思い出したかな?」 と、相手は、ますます楽しげだ。 が、 兎 ( と )に 角 ( かく )、生きていることは悪うない。 老人は、ジッと見て、 「我慢を重ねて、来たが、もう我慢が成らぬと申すか?」 「はい。 この大江戸には、父親を、打ち 仆 ( たお )し、蹴り仆し、 蹂 ( ふ )み 躪 ( にじ )り、狂い死にをさせて、おのれたちのみ 栄華 ( えいが )を誇る、あの五人の人達が、この世を我が物顔に、時めいて暮しております。 変通自在でのうてはならぬ。 さ、売出しの女形に貧乏うらないが長話、人目に立っては成らぬ。 去 ( い )になされ」 「実は、これから、御存知の剣のお師匠、脇田先生へ、お顔出しいたそうとする途中でござりまする。 雪之丞が八幡宮鳥居前に待たせてあった、 角樽 ( つのだる )を 担 ( かつ )がせた供の男に案内させて、これから急ごうとするのは、縁あって、独創天心流の教授を受けた、脇田一松斎の、元 旅籠 ( はたご )町道場へだ。 代々続いた長崎の大商人、その代々の中でも、一番 温厚篤実 ( おんこうとくじつ )な評判を得ていたと云う、 親父 ( おやじ )どのを、 威 ( おど )したり、すかしたりして、自分たちの、あらぬ非望に引き入れて、しかも最後に、親父どのだけに 責 ( せめ )を負わせ、裏長屋に狂い死にさせた、あの呪わしい人達が平気な顔で揃いも揃って、栄華を極めている、その江戸へ、やっと上って来ることが出来たこのわたしが、どうして手を 束 ( つか )ねていられよう。 孤軒先生、わたしは 屹度 ( きっと )戦います。 戦わずには置きませぬ。 長崎人形町の裏長屋で、半ば 耄 ( ぼ )け果てた、落ちぶれ者の父親とたった二人、親類からも友達からも、すっかり見捨てられ尽くして、明日のたつきにも、 困 ( こう )じ果てていた時、その頃これも名を成さず、 陋巷 ( ろうこう )に埋もれていた場末役者の、菊之丞に拾われて、父なき後は、その人を親とも兄とも頼んで、人となって来た彼なのだった。 雪之丞はその当時、まだ七つ八つのあどけない頃で、何故、ある晩、あの美しく、優しい母が 咽喉 ( のど )を突いて死んでしまったのか、あの大きな奥深い家から、突然、父親とたった二人、狭い小さい 汚 ( きたな )びれた、裏長屋の一軒へ、移り住まねばならなかったのか、また、あの 何時 ( いつ )も静かな微笑をたたえて、頭を撫でてくれたり、抱いてくれたりした父親が、ともすれば最愛の、いたいけな 伜 ( せがれ )に 拳固 ( こぶし )を上げたり、かと思えば、何やらぶつぶつ独り言をいって、男だてらにほろほろと涙を流したりするようになったのか、まるで、見当もつかなかった。 ただ、今でもはっきり目に映るのは、その頃雪太郎と呼ばれていた、いとけない一少年に過ぎなんだ自分が、そうした父親の、不思議な挙動に目を ( みは )って、 凝 ( じ )っと見詰めては、父親が泣き出すと、自分も 一緒 ( いっしょ )にしくしくと、何時までも泣き続けていた、 黄昏 ( たそがれ )の灯のない裏長屋の中のあまりに 侘 ( わび )し気な 風情 ( ふぜい )だった。 憎い奴等だ。 口惜しがっても、憎らしがっても、生きたままではどうにもならぬ。 わしは死んで取り殺すぞ。 死んでお前の胸の中に 魂 ( たましい )を乗り移らせ、お前の手で 屹度 ( きっと )あやつ等を亡ぼさずには置かぬのだ」 と、世にも 凄 ( すさ )まじい調子で呟くと、わが子の 身体 ( からだ )を、ぐーっと抱きしめた。 と思うと、突然、 「ううむ」 と、いうような 唸 ( うな )り声を立てると同時に目をつり上げ、 頭髪 ( かみ )を逆立て、口尻からだらだらと血を流し始めた。 雪之丞の雪太郎は、年はもゆかぬ頃、父親が、舌を 噛 ( かん )での狂い死にの、その 臨終 ( いまわ )の一 刹那 ( せつな )とも知らず、抱きしめの激しさに、 形相 ( ぎょうそう )の怖ろしさに、ぐいぐいと締めつける、骨だらけの 腕 ( かいな )の中から、すり抜けて思わず壁ぎわまで 遁 ( に )げ出し、べたりと坐って、わあわあ泣き始めた。 そこへ、入口の建てつけの悪い戸が 開 ( あ )いて、顔を出したのが、毎晩小屋の戻りには、何かあたたかい物の、竹の皮包でも提げて、見舞ってくれる、場末役者の菊之丞だった。 菊之丞は、この 有様 ( ありさま )を眺めると、持っていた包を投げ出して、清左衛門を抱き起した。 顎から胸へかけて、 夥 ( おびただ )しく血を流し、いまはもう、目を逆釣らせてしまった、哀れな男の顔を 窺 ( のぞ )き込んで、菊之丞は涙をこぼした。 「とうとう、おやりなすったな! 無理はござりません。 御尤 ( ごもっと )もです。 松浦屋ともいわれた方が、役人や、 渡世 ( とせい )仲間や、悪番頭の悪だくみにはめられて、代々の御身代は奪い取られ、 如何 ( いか )に 密貿易 ( ぬけに )の罪をきたとはいえ、累代御恩の 子分 ( こぶん ) 児方 ( こかた )さえ、訪ねて来る者もない始末。 天にも地にも見放されなすって、死んで仇を呪い殺そうとなさるのは、当然です。 如何なる御縁かわかりませぬが壁一重隣に住んで、御懇意申すようになった、この菊之丞、日頃の御心持は、よく知っております。 身分違いの河原者、しかも、世の中に名も聞えぬ、 生若 ( なまわか )い身にはございますが、痩せ腕ながら菊之丞、屹度、雪太郎坊っちゃまを、お預かりいたし、必ず御無念を、このお子の手で晴らさせて御覧に入れます」 ほんに、どのような 宿世 ( すくせ )であったか、その晩以来、雪太郎は、菊之丞の手に引き取られて、やさしい 愛撫 ( あいぶ )を受ける身となったのだ。 雪太郎は十二の年雪之丞という名を 貰 ( もら )って、初舞台。 子役として芸を磨きながら、一方では菊之丞の心入れで、武芸、文学の道に突き進むことが出来たのだ。 雪之丞は、 東下 ( あずまくだ )りをしたばかりの、今日、この二人の恩人たちに、会うことが、出来たということが、何となく、 幸先 ( さいさき )がいいように思われる。 供の男は、くどくど 詫 ( わ )び入っている。 雪之丞は 俯向 ( うつむ )いて、考えごとをして歩いていたので、何も気がつかなかったが、供の男が、通りすがりに、この素浪人の袖たもとに、思わず触れたものであったろう? ならず 士 ( ざむらい )は、いきり立つ。 「武士たる者に、けがらわしい。 見れば貴様は、河原者の供ではないか。 身体 ( からだ )に触れられて、その 儘 ( まま )では措けぬ。 不愍 ( ふびん )ながら、手打ちにするぞ」 「何分、日暮れまぐれの薄暗がり、あなたさまが横町から、お 出 ( いで )になったに気がつきませず、お召物のどこぞに、触ったかも知れませぬが、それはこちらの不調法、どうぞ、お許し下さいませ」 と、供の男は、ひたすら詫びている。 「何に? 気がつかなかったと? その一言からして、無礼であろう。 さては貴様は、この方が余儀ない次第で、 尾羽 ( おは )打ち枯らしている 故 ( ゆえ )に、 士 ( さむらい )がましゅう思わなんだというのだな。 いよいよ 以 ( もっ )て聞き捨てならぬ。 それへ直れ」 と、 猛 ( たけ )り 喚 ( わめ )く。 雪之丞は、困惑した。 江戸にはこうした無頼武士がはびこって、相手が弱いと見ると、何かにつけて言いがかりをつけ、金銭をゆするはおろか時によると、剣を抜いて、挑みかかることもある故、気をつけるがいいと、いわれていたが、早くも、かような羽目に落ちて、どうさばきをつけたらよいか、途方に暮れた。 それに、この浪人の 唇 ( くち )から漏れた、河原者という一言がぐっと胸にこたえたので、 平謝 ( ひらあやま )りに謝るのもいまいましかったが、虫を押えて、一歩進み出た。 「これはこれは、お士さま。 供の者が何か御無礼いたした様子、お腹も立ちましょうが、 御堪忍 ( ごかんにん )あそばして、許してやって下さいませ」 と、 丁寧 ( ていねい )に 挨拶 ( あいさつ )する雪之丞の、たわやかな姿を、素浪人は、かっと見開いた、毒々しい目でぐっと 睨 ( ね )め下ろした。 おどおどと、恐怖にみたされて、腰も抜けそうに見える供の男を、いつか後ろに囲うようにした雪之丞は、浪人者の毒々しい視線を、静かな、美しい瞳で受けながら、重ねて詫びた。 「重ね重ね奇怪だ、無礼だ。 身分違いの身で、土下座でもして謝るならまだしも、人がましゅうし目の前に立ち 塞 ( ふさ )がって、それなる奴を、かばいだてしようなどとは、いよいよ以て許されぬ。 それへ直れ、押し並べて、二人とも 成敗 ( せいばい )する」 雪之丞は、 微塵 ( みじん )、怖れは感じなかった。 こんな奴を相手にするより、小判の一枚も包んだ方が、とくだとは思ったが、尾羽打ち枯らして、たつきに困ればとて、大刀をひねくりまわし、武力に 愬 ( うった )えて、弱い者から飲み代を、稼ごうと言う 了簡 ( りょうけん )を考えると、人間の風上に置けない気がした。 その上、 辛抱 ( しんぼう )がならないのは、天下の公道で、二言めには、河原者の、身分違いのと、喚き立て、言い 罵 ( ののし )るのを聞くことだった。 許されぬ。 堪忍ならぬ」 と、大刀の鯉口を切って、のしかかる。 夕まぐれとは言え、人通りの絶えぬ 巷 ( ちまた )。 いつか、黒山のように、人立ちがしているが、 如何 ( いか )にも相手が悪いので、雪之丞たちのために、扱おうとする者もない。 雪之丞は、本当に刃が落ちて来たなら、降りかかる火の粉。 引っぱずして、投げ退けようとじっと気合を 窺 ( うかが )いながらも、胸の中は 煮 ( に )えくり返った。 浪人が抜いたと見ると、雪之丞は大地に片手の指先を突いたまま、片手で、うしろに 踞 ( うずくま )ってわなないている供の男を、 庇 ( かば )うようにしながら、額越しに上目を使って、気配を窺った。 雪之丞の、そうした 容態 ( かたち )は、相も変らず、 淑 ( しと )やかに、優しかったが、しかし、不思議に、五分の油断も 隙 ( すき )もない気合が 漲 ( みなぎ )って、どんな太刀をも、寄せつけなかった。 浪人は、まるで電気にでも触れたように、パッと飛び退って、 驚愕 ( きょうがく )の目を見はった。 勿論、この浪人、雪之丞を、真二つにする覚悟があって抜いたわけではない。 が、相手の身体から 迸 ( ほとばし )る、奇怪な、霊気のようなものを感じると、顔色が変った。 この剣気はどうだ? が、この河原者、兵法に達しているわけはない。 彼は、そう心にいって、乗りかかった船、思いきって斬り下げようとしたが、駄目だった。 振り下ろす刃は、ピーンと、 弾 ( はじ )き返されるような気がした。 雪之丞は、さもしおらしく、片手を土に突いたままだ。 するとその時、取りまいた群集の中から、 「うむ、面白いな。 こいつあ面白いな」 と、言う 呑気 ( のんき )な声が聞えて、やがて、人山を割って、一人の職人とも、遊び人ともつかないような風体の、 縞物 ( しまもの )の 素袷 ( すあわせ )の 片褄 ( かたづま )をぐっと、引き上げて、左手を 弥蔵 ( やぞう )にした、苦みばしった若者が現れた。 おいらが引き受けたから、さあ早く行くがいいぜ」 その言葉を聴くと雪之丞は、 「御親切はかたじけのうございます」 と、そう言いながら、チラと、若者を 仰 ( あお )いで、すらりと身を起した。 「お言葉に従い、ではわたくしは、行かせていただきます。 さあ、そなたも」 と、腰が抜けたような、供の男を 促 ( うなが )して、素早く人混みの中に、くぐり込んだ。 その彼の耳に響くのは、吉原かぶりの若者の、きびきびした 啖呵 ( たんか )だった。 「さあ、お浪人、相手が変ったぜ。 弁天さまのような 女形 ( おやま )のかわりに 我武者 ( がむしゃ )らな、三下じゃあ、変りばえがしねえだろうが、たのむぜ。 その斬れ味のよさそうな 刀 ( やつ )の、始末を早くつけたらどうだ?」 雪之丞は、急に駈けるように急ぎ出した供の男の跡を追いながら、小耳をかしげていた。 脇田一松斎道場は、森閑としていた。 丁度、昼間の稽古が済んで、夜稽古は、まだ始まらぬのであろう。 雪之丞が 訪 ( おとな )うと、直ぐに、書斎に通された。 武芸者の居間に似合わず、三方は本箱で一杯で、床には、 高雅 ( こうが )、 狩野派 ( かのうは )の山水なぞが掛けられている。 それを背にして、一松斎は、桐の机に坐っていた。 頭髪 ( かみ )を 打 ( ぶ )っ返しにして、 鼠紬 ( ねずつむぎ )の小袖、茶がかった 袴 ( はかま )をはいて、しずかに坐ったところは、少しも 武張 ( ぶば )ったところがない。 殊更、その 風貌 ( ふうぼう )は、眉が美しく、 鼻梁 ( はなすじ )が通り、口元が優しく 緊 ( ひきしま )っているので、どちらかというと、 業態 ( ぎょうてい )には 応 ( ふさ )わしからぬ位、みやびてさえ見える。 一松斎は、敷居外にひれ伏した雪之丞を、眺めると、微笑を含んで、 「そなたが、江戸に下られた 噂 ( うわさ )は、 瓦版 ( かわらばん )でも読んでいた。 いやもう、大変な評判で、 嬉 ( うれ )しく思う。 さあこれへ進まれるがよい」 雪之丞は、燭台の光に、半面を照されている旧師の顔を、なつかし気に仰いで、一礼すると、机の前ににじり寄った。 「一別以来、もう四年だ。 でも、今度は 滞 ( とどこお )りなく江戸下りが出来まして、お目にかかられ、かように嬉しいことはござりませぬ。 それに、ただ今道すがら、八幡さまにお 詣 ( まい )りいたしますと、孤軒老師にはからず御対面。 文武の両師にいちどきにお目にかかれましたも、神さまのお引き合せと、嬉しゅうてなりませぬ」 「ほお、孤軒先生に?」 と、一松斎はいくらか、 吃驚 ( びっくり )したように、 「それは珍しい。 かのお方も、御出府なされていようとは、存じよらなかった」 「何しろ八幡さま御境内で、 売卜 ( ばいぼく )をなされておりますようで、すっかり、驚かされてしまいました」 「相変らず、意表に 出 ( い )でた暮しをなされているな!」 一松斎は笑って、 「あれ程のお方になると、 並 ( なみ )の生活は、なさりかねると見えるの」 そう言う彼も、依然として、独身生活を続けていると見えて、茶菓をはこんで来るのも、内弟子らしい少年だった。 「拙者の方は、例によって、 竹刀 ( しない )ばかり持ち続けているが、どうもまだ、山林に隠れる程の覚悟も決まらぬよ。 慰めは酒だ。 そう申せば、只今は、灘の 上酒 ( くだり )を頂いたそうで、何よりだ」 それから一松斎は、 満更 ( まんざら )、芸道にも 昏 ( くら )からぬ言葉で、江戸 顔見世 ( かおみせ )の狂言のことなど、訊ねるのだったが、ふと、やや鋭い、しかし、静かさを失わぬ目つきで、雪之丞を見詰めると、 「よい折だ。 今夜は、そなたに、拙者としてまず第一番の、贈り物をして 遣 ( つか )わそう」 雪之丞は、師を見詰めた。 「外でもないが、拙者幼年の頃より、独立自発、 心肝 ( しんかん )を 砕 ( くだ )いて、どうやら編み出した流儀の、 奥義 ( おうぎ )を譲ろう」 雪之丞は、一松斎の言葉を聴くと、のけ 反 ( ぞ )るばかりに驚愕した。 「え? わたくしに、 御 ( おん )奥義を、お譲り下されると 仰有 ( おっしゃ )るので?」 一松斎は、微笑していた。 「如何にも、その時がまいったようだ」 奥義を許されると聴いて、雪之丞は、狂気仰天したのも無理はない。 一松斎その人が、 既 ( すで )に、その極意を、何人から得たわけではなかった。 彼にも、そこまで剣を練るには、いうにいわれぬ、 悲苦艱難 ( ひくかんなん )があったのだ。 彼の父親は、大坂城代部下の、一 勘定 ( かんじょう )役人であったが、お城修理の 砌 ( みぎり )、作事奉行配下の、腕自慢の侍と口論し、筋が立っていたので、その場は言い分を通したが、程経て、闇打ちに会ってしまった。 文武は車の両輪というが、なかなか一身に両能を兼ねられるものではない。 だが、それからの幾年月を、天下諸国を 流浪 ( るろう )して、各流各派の剣士の門を 敲 ( たた )き、心肝を砕いて練磨を 遂 ( と )げているうちに、いつとはなしに、自得したのが、 所謂 ( いわゆる )、独創天心流なる、一種、独特な剣技だったのだ。 「教えられるだけのものは、既に教えてある気がするが、たった一つ、深く心に、噛みしめて 貰 ( もら )いたいことがある。 道場の 支度 ( したく )が相済んだら、早速、伝授し遣わそう」 彼は、そういうと、手を鳴らした。 内弟子が現れる。 「御神前の 御灯明 ( みあかし )をかがやかし、 御榊 ( おさかき )を 捧 ( ささ )げなさい。 道場にて、この者と、用事あるによって、人払いをいたすがよい」 内弟子は、かしこまって去った。 間もなく一松斎は、起ち上った。 最早、夜稽古が始まる時刻で、道場に詰めかけていた、通いの門弟たちは、控え所の方へ追い出されていた。 ガランとして 人気 ( ひとけ )もない中に、雪持寒牡丹の模様の着つけに、紫帽子の 女形 ( おやま )が、たった一人、坐った姿は、異様で 且 ( かつ ) 妖 ( あや )しかった。 「ではこれから、秘伝伝授の儀に移ろう」 一松斎はそういって、 額 ( ぬか )ずく雪之丞を見下ろすと、祭壇に向って、柏手を打ち、深く、 跪拝 ( きはい )して、いつも神霊の前に供えてある、黒木の箱の 蓋 ( ふた )をはねると、中から、一巻の 巻物 ( まきもの )を取り出した。 そして、元の座に戻って、 「雪之丞、まいれ。 遣わすぞ」 その一巻を、壇下から、震えるばかり白い手をさし伸べて、受けようとする雪之丞、師弟の手が触れ合おうとした、その刹那だ。 道場外に声があって、 「その御伝授、お待ち下さい」 と、 切羽 ( せっぱ )詰まって、荒々しく響いた。 開き 扉 ( ど )を音高く開けて、走り入って来たのは、大坂以来、一松斎につききりの一の弟子、師範代を勤める、 門倉平馬 ( かどくらへいま )という、髪黒く眼大きく、 面長 ( おもなが )な、やや顎の張った、青白い青年だった。 突然の 闖入者 ( ちんにゅうしゃ )門倉平馬、必死の形相で、またも叫んだ。 その一巻の披見、雪之丞にお許し、お止まり下さい」 雪之丞は、伝書を受け取ろうと、伸べた手を、思わず引いたが、師匠一松斎は、ただ静かな瞳を、平馬に向けただけだった。 「日頃にもない平馬。 順に従い、御披見を、先ず拙者に許されますよう、平にお願いいたしまする」 武道の 執念 ( しゅうねん )、 栄辱 ( えいじょく )の 憤恨 ( ふんこん )、常日頃の沈着を失った平馬は、いまは、両眼に、大粒な口惜し涙を一杯に浮かべてさえいる。 「わしはこれまで、その方はじめ、門下一同に向い、拙者一流の兵法を、よう自得いたしたとか、自得せぬとか 称 ( ほ )めもくさしもしたことがあったか? わしは 何時 ( いつ )も、ただ、竹刀木剣を持って、その方たちの打ち込みを受け、隙があればその方たちを、打ち倒してつかわしたまでだ。 その方に師範代などと言う名義を与えたこともない。 単に、居つきの古い弟子故、門弟一同の方から、その方を立てているまでだ。 と、申すは何も、その方を、 蔑 ( さげす )んだり、その方の剣技を認めぬと言うわけではない。 わしはわしの流儀で、人間を縛るのが 厭 ( いや )だからだ。 いつも申す通り、 業 ( わざ )も一代、人も一代、いかにその方が、わしの流儀を 尊 ( たっと )んでくれたればとて、わしとて、剣の神ではない。 「方便だ」 と、一松斎は、強くいった。 門倉平馬が、面色を変じて、強請をつづけるのを眺めて、一松斎は、別に怒るでもなく、 「そこまでその方が申すなら、見せても遣わそう。 雪之丞にすれば、何も、兄弟子平馬に先んじて、秘伝伝授を受ける心はないが、 折角 ( せっかく )の折柄を妨げられて、不安を感じていたのを、師匠が、片手落ちなく両方へ、披見を許すといってくれたので、やっとほっとして、白い手を 恭 ( うやうや )しく差し伸べたのだった。 はっと驚愕した雪之丞、 「 狼藉 ( ろうぜき )!」 と、叫んで、これも飛び上って跡を追おうとする。 一松斎は、呼び止めた。 「追うな。 「天から授からぬものを、強いて暴力で奪おうとしたところで、何も得られはせぬ。 平馬は、わしの側について、十年あまり、剣技を学んだが、 業 ( わざ )よりも大事なものを、学ぶことが出来なんだ。 「わしの流儀には、不言不説を、 旨 ( むね )とするのは、そなたたちも、よう知っている筈だ。 奥義とて、文字に現せる筈もなし、それを強いて現し得たとしても、その一巻を、如何に御神霊の前なりとは言え、守る人もなきところに、捧げて置く筈があろうか? あの巻物は、何人のためでもない。 わし自身の、 増上慢 ( ぞうじょうまん )を自ら 誡 ( いまし )めようための、御神霊への誓いだったのだ。 とかく術者は、 業 ( わざ )を自得し、その名が世間に認められ、 慕 ( した )い寄る門下も、多くなればなる程、最初の一念を 忘却 ( ぼうきゃく )し、己が現世の勢力を、押し広め、流派を盛んにして、我慾を張らんとし、秘伝の 極意 ( ごくい )のと、事々しく、つまらぬ箇条を書き並べて、痴者を 威 ( おど )そうとするものだ、わしとても、神ならぬ人間。 そなたに 今宵 ( こよい )、白紙の一軸を贈ろうとしたのも、今度こそ、大事を思い立っていると、見極めた程に、改めて、わしの日頃の、魂そのものを、伝えようとしたまでだ。 何も、平馬を追うには及ばぬ。 彼はただ、師を失い、友を失って、全く空なるものを 掴 ( つか )んだだけじゃ」 雪之丞は、ひれ伏したままで、深い感動に満たされた。 「さあ、 会得 ( えとく )したら、 彼方 ( あちら )の 室 ( へや )にて、そなた持参の銘酒の 酒盃 ( さかずき )を上げよう。 まいれ」 師弟は、神前に 額 ( ぬか )ずいて、道場を去った。 一松斎も雪之丞も 酒盃 ( さかずき )を傾け始めると、もう今までの道場での事件などには、何も触れなかった。 言わば、 浮世話 ( うきよばなし )と言ったような、極めて 暢 ( の )びやかな会話が、続くだけだった。 朗かな談笑の笑声さえ漏れていた。 酒だけが楽しみのような一松斎の頬に、赤い血の色が、ぼうっと上る頃、雪之丞は、 暇 ( いとま )を告げようとした。 それだけは心に止めて置いてよいだろう」 土部駿河守というのは、大身旗本で、名は 繁右衛門 ( しげえもん )。 浜川、横山などが代官又は、手付役人として長崎に在任、雪之丞の父親を 籠絡 ( ろうらく )して、不義の富を重ねていた頃、最高級の長崎奉行の重職を占め、本地の他に、役高千石、役料四千四百俵、役金三千両という高い給料を幕府から受けながら、 猶且 ( なおかつ ) 慊 ( あきた )らず、部下の不正行為を 煽動 ( せんどう )して、ますます松浦屋を窮地に落させた、いわば 涜職 ( とくしょく )事件の 首魁 ( しゅかい )といってもいい人物なのであった。 この人間には、不思議な病癖があって、 骨董 ( こっとう )珍器、珠玉の類を 蒐集 ( しゅうしゅう )するためには、どのような不徳不義をも、甘んじて行おうとする気性、松浦屋の手から召し上げた珍品だけでも、数万両の額に上ると言われていた。 それが今では、 隠居 ( いんきょ )して家督を、伜繁助に譲り、末娘が将軍の 閨房 ( けいぼう )の一隅に 寵 ( ちょう )を得、世ばなれた身ながら、 隠然 ( いんぜん )として権力を、江都に張っていたのであった。 起ち上る雪之丞を、師匠は、室の出口まで見送った。 雪之丞は、供の男を従えて、外へ出る。 晩秋の夜気は、しんと沁み通るようだ。 無月なのに星の光りが、一層鮮かに、冷たい風が、あるか無きかに流れている。 すうっと、ある肌冷たさが、雪之丞の、白くほっそりとした首筋に、感じられた。 と思う刹那、闇をつん 裂 ( ざ )いて、無言の烈刃が、びゅうと、肩口に落ちて来た。 ぎゃっ、とおめいて、 遁 ( に )げ出す供男。 雪之丞は、ひらりと 躱 ( かわ )すと、じっと身をそばめて、気配を 窺 ( うかが )った。 闇を 透 ( すか )して、相手をうかがう、雪之丞の細っそりした 右手 ( めて )はいつか、帯の間にはいって、懐剣の柄にかかっていた。 躱された敵は、 退 ( す )さって、じいっと、剣をあげて、次の構えに移ったと見えて、青ざめた星の光が、刀身にちらちらときらめき、遠い常夜灯のあかりに、 餌食 ( えじき )を 狙 ( ねら )う動物のように、少しばかり背かがみになった姿が、黒く、物凄く看取された。 雪之丞は、気息を整えた。 相手の 荒 ( あら )らいだ息も静まって、死の 静寂 ( せいじゃく )がおとずれた。 じいんと刃金が相打って、響きを立てて、火花が散った。 それなりまた、二つの姿は、少し離れて、互に隙を窺う。 暗殺者の刀は、下げられた。 どうした羽目か、短い剣が、長い剣の持主の、腕の 何処 ( どこ )かに触れたらしく、あっと低く、 呻 ( うめ )く声がしたと思うと、黒影は 咄嗟 ( とっさ )に二つに分れて、暗殺者が、傷ついた 獣物 ( けもの )の素早さで、闇に消え行く姿が見えた。 雪之丞は、懐剣をかざしたまま、追おうともせず、見送ったが、相手が余程の強敵だったと見えて、呼吸は乱れ、全身に、ねっとりと汗だ。 彼は、門倉平馬が、彼にとっては、仇敵の総本山であるような、土部駿河守の 麾下 ( きか )に、新しく属しているということを、一松斎がわざわざ囁いてくれたのを思い出したのだ。 今夜こそ、平馬の一刀が、自分の生命を奪い損ね、まんまと 敗衂 ( はいじく )の姿を見せたものの、決して油断のならぬ、技倆の持主であるということは、十分に知っている。 彼は、自分の 希望 ( のぞみ )を成しとげるに、あらゆる意味で、大なる困難が横たわっていることを、改めて思わずにはいられなかった。 雪之丞は、しとしとと、夜道を、御蔵前通りを、駒形の方へ、歩を運ぶ。 すると、思いがけなく柳かげから、 「太夫さん、何とまあ、素晴しいお手のうちじゃござんせんか!」 と、いう、若々しい、しかし、いくらか 錆 ( さび )た声がいいかけて、はばからず歩み近づいた一人の男。 見れば、それは、 黄昏 ( たそがれ )どき、浪人者に難題をいいかけられた折、割ってはいった、あのいなせな、若衆だった。 あの野郎、ちっとばかし、威してやると、すっ飛んで行きやがった」 雪之丞は、べらべらと立て続けに 喋舌 ( しゃべ )りつづける、この吉原かぶりの、小粋な姿を、不思議そうに見つめるばかりだ。 それを見抜いた眼力は、大きく見れば程知れず、低く見ても、免許取り。 ごろん棒のあっし達。 喧嘩に場慣れているだけでさあ」 と、事もなげにまくし立てたが気がついたように、 「実はあれから、この近所に、あっしも用達しがあったので、その戻り道。 たった今の 剣 ( つるぎ )の光を見たわけですが、太夫さん程の腕がありゃ、どんな夜道も安心だとはいうものの、そのしおらしい 女形 ( おやま )姿を、夜更けの一人歩きは考えもの。 山ノ宿まで一ッ走り、送ってあげてもれえてえ」 と、いう声がしている。 そして直きに、辻駕籠は思わぬ客を拾った喜びに、いそいそと、こちらへ近づいて来る様子。 すると、突然、たったいま、あの 訝 ( いぶか )しい若者の、声がしていた方角で、 「御用だ。 雪之丞は、はっとして、日頃の 仕来 ( しきた )りで、女らしく、振りの袂で胸を抱いた。 雪之丞は、この府内に最近上って来たばかり、闇太郎という名から推して、大方、盗賊、夜盗の 綽名 ( あだな )とは思ったが、それにしても、あの 粋 ( いき )で、いなせで、如何にも明るく、朗かな若者が、そうした者とも思われない。 雪之丞の胸の中は、今の、闇太郎問題で一杯だ。 その人物は、たしかに、つい今し方、この駕籠を、自分のために、呼びに行ってくれた、あの若い衆に相違ない。 たったいまだって、この方が駕籠が欲しいようだぜ、と、声をかけてくれたその人が、五間と向うへ行かねえうちに、御用の声だ。 闇太郎という声がなけりゃあ、役人衆に手貸しをして、 捕 ( つか )めえるが、こっちらの 務 ( つとめ )だろうが、あの呼びかけがあったので、わざと、聞えねえ振りをして、後も向なかったわけなのです」 雪之丞は、始めて、一切が呑み込めたのだった。 彼は、駕籠舁たちよりも、一そう強く、あの若い生き生きしい、いなせ男を、思慕せずにはいられない。 賊と聞いても、怖ろしいどころか、却って懐しく、どうかして、もう一目逢いたいようにすら思うのだった。 辻駕籠が、月なき星空の下を、北へ飛ぶ。 もう直き、 旅籠 ( はたご )のある、山ノ宿だ。 雪之丞の駕籠は、間もなく、大川の夜の霧が、この辺まで、しめじめと 這 ( は )い寄って、ぼうっと薄白く漂っている、山ノ宿の、粋な宿屋町までやって来た。 駕籠は、屋号をしるした 行灯 ( あんどん )が、ほのかに匂っている一軒の、 格子戸 ( こうしど )の前に降された。 駕籠やは、 酒代 ( さかて )にありついて、喜んで戻って行く。 格子が 開 ( あ )いて、玄関に、膝をついて出迎える女中たち。 揃って、 小豆 ( あずき )っぽい 唐桟柄 ( とうざんがら )に、襟をかけ、 黒繻子 ( くろじゅす )の、粋な昼夜帯の、中年増だ。 うしろから、眉は落しているが、歯の白い、目にしおのある、 内儀 ( おかみ )が顔を出して、 「ついさっき、お供のお人が 周章 ( あわ )てて、駈け込んでおいでだから、どうしたのかと、親方さんに 伺 ( うかが )ったら、なあに何でもない。 表二階を通して、四 間 ( ま )。 雪之丞とその師匠、中村菊之丞のための部屋になっていた。 菊之丞一座は、一行、二十数人の世帯であったが、江戸へ来ると、格で分れて、この 界隈 ( かいわい )の役者目当ての宿屋に、分宿していた。 雪之丞とて、師匠の隣部屋に、宿る程の分際ではなかったが、弟とも、子とも言う、別種な関係があり、殊更、今度の江戸上りは、彼にとって、重大な意義があるのを、知り抜いている菊之丞故、わざと、身近く引き寄せて、置くわけだった。 雪之丞は、部屋にはいる。 師匠菊之丞は、厚い紫地の友禅の座布団に坐って、どてら姿だったが、いつもながら、行儀よく、キチンとした態度で、弟子を迎える。 部屋の中には、何処となく、 練香 ( こう )の匂いが漂って、手まわりの用をたす、十三、四の子役が、雪之丞が坐ったとき、燭台の、芯をなおした。 「何か妙なものに出会ったと聴いたが、そなたのこと故、別に気にもせず、帰りを待っていましたぞ」 と、菊之丞は、微笑した。 彼は、この 愛弟子 ( まなでし )の不思議な、手練をよく知っているのだ。 雪之丞は、行く道で、孤軒老師に 邂逅 ( かいこう )した一条や、脇田道場での門倉平馬との 経緯 ( いきさつ )や、匿すべき相手でないので、一切を告げ知らせるのであった。 「ほほう、それで、そなたの前に、きらめいたという光り物のわけも、大方解ったようだ」 と、師匠は 頷 ( うなず )いて、 「してその、門倉とかいうお方は、余程のお腕前かな?」 「それはもう、一松斎先生が、一のお弟子と、お取り立てになった程の仁、まず何処へ出しても、引けをお取りになる方ではござりませぬ。 わたしが、あの方の、暗中からの不意打ちを、どうやら防ぐことが出来ましたのは、何しろ、あのお方は、闇打ちは 卑怯 ( ひきょう )なことと、お胸の中で、何処か 怯 ( おくれ )がおありでありましたろうし、それに、日頃信心の、神仏の御加護があったためでもござりましたろう。 決して、油断も隙もなるお方ではござりませぬ」 と、雪之丞は、いつもの 謙遜 ( へりくだり )で答えた。 菊之丞は、弟子の顔を見詰めて、 「そうじゃ、そうじゃ。 いつもその謙遜を忘れねば、芸術も兵法も、必ず、至極の妙に達しることが出来るであろう。 その志は、わし達のような年になっても、構えて忘れてならぬものだ」 などと、話しているところへ、来たのは、今度の座元、中村座の奥役の一人だった。 かたばみの紋のついた、小豆色の短か羽織。 南部縞の着付。 成程 ( なるほど )、何枚かの図面には、 総 ( すべ )て付け込みのしるしが一面に書き込まれているのだった。 雪之丞の、星にもまがうような、美しい瞳は、奥役の唇から、土部駿河守の名が洩れた時、異様なきらめきを 漲 ( みなぎ )らして、思わず、何か口に出そうとしたようであったが、チラリとこちらに向けられた、師匠の視線に、 辛 ( かろ )うじて、己れを制したのであった。 菊之丞は、 「どれどれ、わしに、お書き付を、お見せ下され」 と、いって奥役から、書き込みを受け取ると、 「雪之丞、そなたも拝見なさい。 成る程、さて、さて、素晴らしいお顔振れ、こうした方が、揃っての御見物では、こりゃ、うかとは、舞台が踏めませんわい」 雪之丞は、目を輝かして、師匠がさし示す見物申込の書き込を、のぞくのだった。 そこには、多くの、江戸で名だたる、 花街 ( いろまち )、富豪、貴族たちの、家号や名前が、ずらりと並んでいるのだったが、彼の瞳は、ただじっと、土部三斎という、駿河守隠居名に、注がれて離れなかった。 彼の胸は、激烈な憎悪と、 憤恨 ( ふんこん )とに 焦 ( こ )げるのである。 父親を、破滅させて、 陋巷 ( ろうこう )に窮死させた、あの残忍な一味の 主魁 ( しゅかい )が、今や、一世の栄華を 擅 ( ほしいまま )にして、 公方 ( くぼう )の外戚らしく権威を張り、松浦屋の残映たる、自分の舞台を、幕を張り 廻 ( めぐ )らした、特別な桟敷から見下ろそうとするのである。 師匠、菊之丞は、愛弟子の、そうした胸の中を察したように、わざと、上機嫌な語調で、 「のう、雪之丞、これは、そなたも、 怠慢 ( なまけ )てはいられませぬぞ。 御歴々の御見物、一足の踏み違えでもあっては、お江戸の方々から、 上方者 ( かみがたもの )は、到らぬと、一口に 嘲 ( わら )われましょう」 「はい、 慎 ( つつし )む上にも、慎んで、一生懸命、 精進 ( しょうじん )いたす覚悟でござります」 奥役は、師匠が前景気に十分喜ばされたように信じて、いそいそと帰って行った。 この頃不入り続きの中村座。 「雪之丞、とっくりと見たであろうな?」 「はい、拝見いたしました」 菊之丞は、考え深い目つきで、 諭 ( さと )すように、 「だが雪之丞、申すまでもないことだが、桟敷に、土部三斎を始め、どのような顔を見たとても、構えて心の動きを外に出してはなりませぬぞ。 そなたの腕なら、舞台から 笄 ( こうがい )を投げても、三斎めの息の根を止めることは出来ようが、それでは、望みの十分の一を、達したとも申されぬ。 「いつか、夜も更けたようだ。 そろそろ床を 敷 ( と )らせようか?」 と、師匠がいって手を鳴らした。 お師匠さんの 仰言 ( おっしゃ )る通り、じっと 怺 ( こら )えて、いざと言う場合まで、自分の力を養って行く他はないのだ。 気を 嵩 ( たか )ぶらせてはならぬ。 女の子のように、めそめそしてはならぬ。 また、じりじりと 焦 ( あせ )ってもならぬ。 姿こそ、 変生女性 ( へんじょうにょしょう )を 装 ( よそお )っては居れ、胆は、あくまで 猛々 ( たけだけ )しいわたしでなければならぬ。 町家が続くあたりに、 土蔵 ( くら )造りの店構え、家宅を囲む板塀に、忍び返しが 厳 ( いか )めしい。 江戸三 金貸 ( かねか )しの一軒と、指を折られる、大川屋と言う富豪の塀外を、秋の夜の、肌寒さに肩先をすくめるようにして 懐 ( ふとこ )ろ手。 吉原 冠 ( かぶ )りの後ろつきも小粋な男が、先ず 遊興 ( あそび )の帰りとでもいうような物腰で、急ぐでもなく歩いていた。 吉原冠りの若者は、丁度いま、大川岸の裏塀に這い上って、忍び返しを越えようとしていた折も折この呼び掛けでじっと身を固くしたが、しかし、別に 周章 ( あわ )てるでもなく、 「うむ、 執拗 ( しつ )っこい奴等だな、御蔵前で見ん事、 撒 ( ま )いてやったと思ったに、し 太 ( ぶと )く 跟 ( つ )けて来やあがったのか」 と、呟くと、そのまま、すうっと、下に降りて、板塀に後ろ楯。 ぴったりと背を貼りつかせた。 生れは、由緒正しい御家人の家筋。 父親が、上役の 憎悪 ( にくしみ )を受けて、 清廉潔白 ( せいれんけっぱく )の身を殺さねばならなくなったのを、子供心に見て以来、いわば、社会の不合理な組織を、 憎 ( にく )み 嘲 ( あざ )む、激情止み難く、 遂 ( つい )に、無頼に持ち崩し、とうとう、賊をすら働くようになった若者なのだ。 したがって、 天晴 ( あっぱ )れの気性者。 その上、身の働きの素早さは、言語に絶し、目から鼻へ抜けるような鋭い機智で、どんな場合にも、 易々 ( やすやす )と、危難の 淵 ( ふち )を乗り切るのだ。 闇太郎という名乗りも、大方、自分がつけたのではなく如何なる真の闇夜をも、白昼を行く如く、変幻出没が自在なので、世間で与えた、 渾名 ( あだな )が、いつか、呼び名になったのであろう。 江戸司直の手は、最近 殊 ( こと )に手きびしく、この怪人の 行方 ( ゆくえ )を、追い 究 ( きわ )めていた。 あまりに 屡々 ( しばしば )、権門富家の厳重な 緊 ( しま )りを、自由に破られるので、今や、警吏の威信が疑われて来ているのであった。 その闇太郎の姿を、ふっとこの晩、御蔵前通りで、見つけた町廻り同心の一行。 あまりに 咄嗟 ( とっさ )な出会いなので、はっとする間に、強敵の姿を見失ったが、非常警報は、八方に伝えられ、ここまで遁げ延びて、大仕事に司直の鼻をあかそうとした彼を、再び網にかけたわけなのだ。 「闇太郎、遁れぬぞ!」 と、呼び立てる声は、ますます近寄って来た。 しいーんと寝静まった秋の真夜中、江戸三金貸しの一軒、大川屋の裏塀に、ピタリと背を貼りつけて、 白木綿 ( しろもめん )の腹巻の間に、手をさし込んで、 匕首 ( あいくち )の柄を握りしめながら、じっと、追って来る捕り方たちの様子を覗う闇太郎だ。 捕り方たちは、 御用提灯 ( ごようぢょうちん )を振りかざして、 獲物 ( えもの )を狙う 獣物 ( けもの )のように、背中を丸めるようにして、押しつけて来るのだったが、さりとて急には飛び込めない。 相手は何しろ、当時聞えた神出鬼没の怪賊。 迂濶 ( うかつ )に近寄っては、 怪我 ( けが )のあるのは当然として、 却 ( かえ )って、またも取り逃がすことになるかも知れぬ。 「馬鹿め。 その出鼻を、ぱっと、塀を蹴放すように、飛び出した闇太郎。 振り込んで来る得物の下をかいくぐって、横っ飛びに、もういつか、五間あまり、駆け抜けていた。 「わああッ!」 と追い 縋 ( すが )る捕り方たち。 するといつの間にか、この 騒擾 ( そうじょう )が知れ渡ったと見え、どろろんどろろんと、陰にこもった太鼓の響きが、遠く近く、聞えて来る。 町木戸の 閉 ( とざ )される合図だ。 捕り方の方では、その響きを聞いて、ほっと気が 緩 ( ゆる )んだであろうが、そうした気持を、よく見抜いている闇太郎は、あべこべに、 「ざまあ見ろ。 木戸が閉まりゃあ、 却 ( かえ )って 此方 ( こっち )のものだ」 と、心の中で 嘲 ( あざ )み笑いながら、 威 ( おど )すように振りかざした匕首を、星の光にきらめかし、軒下の暗がりから暗がりを、ぱっぱっと、闇を喜ぶ 蝙蝠 ( こうもり )のように縫って行く。 闇太郎の 細 ( ほっ )そりした手先は、つと、町家の 庇 ( ひさし )にかかる。 と、見る間に、彼の姿は、いたちのような素速さで、屋根を越えて、見えなくなった。 彼が飛び降りたのは、裏新町の狭い路地。 その路地を、足音も立てず、ひた走りに走って、やや広い通りへ出る。 闇太郎の行動は、例によって、 敏捷 ( びんしょう )を極めているのだが、今夜は、相手は、なかなか厳しい準備が出来ていた。 その中をくぐりくぐり、やっとのことで、遁げ延びて来た柳原河岸。 一方は大名屋敷の塀続きで、一方は石置場。 昼間でも、 夜鷹 ( よたか )が 茣蓙 ( ござ )を抱えて、うろついているような、淋しい場所だ。 石置場の暗がりに飛び込んでしまえば、どのような鋭い探索の目も、及ばぬであろう。 その上河には、主のない小舟も、 何艘 ( なんそう )か、かかっているのだ。 その石置場へ、今や遁げ込もうとした闇太郎。 激しく何者かに呼びかけられて、はっとして立ち 竦 ( すく )んだ。 「待てッ、怪しい奴」 見れば、つい目の前に、大たぶさの 侍 ( さむらい )が、突っ立っていた。 無造作 ( むぞうさ )に突っ立った、相手の体構えに、不思議な、圧力が 漲 ( みなぎ )っていたのだ。 何十何百の、捕り方に囲まれても、一度も 周章 ( うろ )たえたことのないような、不敵者の彼だった。 幸い、捕り方たちは見当外れの方角へ、駆け去ってしまっていたものの、この侍が大声を発したら、またも、 五月蠅 ( うるさ )く、まつわって来るに相違なかった。 「夜中、怪し気な風態で、匕首なぞをきらめかしているその方は、何者だ?」 闇太郎を見下ろして、鋭い調子で、詰問するこの武家こそ、これも今夜、雪之丞への奥義伝授の 経緯 ( いきさつ )から、突如として、十年も側に仕えた、恩師の 許 ( もと )を飛び出した、門倉平馬に他ならなかった。 彼は、雪之丞を、闇打ちにかけ、一刀の 下 ( もと )に斬り伏せようとして、却って、左の二の腕に、傷を負わされ、不首尾に終って 遁 ( に )げ延びてから、捨て鉢の気持で、とある、小料理屋で、酔いを買ってから、松枝町にある、土部三斎の隠宅を頼って行こうとする途中だった。 「その方は、うち見るところ、ただの 博奕 ( ばくち )打ちや、小泥棒ではない。 拙者に油断が、毛程でもあったら、もうその匕首を、とっくに胸元に突き刺していた頃だ。 その方如きを、うろつかせ置いては、市民の眠りが乱されよう」 「ふうん、して見ると旦那は、岡ッ引の下職でもしていなさるんですかい?」 と、闇太郎の調子は、急に 不逞不逞 ( ふてぶて )しく変った。 「 無頼漢 ( ならずもの )を一人突き出して、いくらか、お手当でも頂こうという腹ですかい? とかく窮屈になった御時勢で、お侍さんも、とんだ内職をなさらなけりゃあ、食えなくなったか?」 闇太郎は、相手の武士が、素晴らしい腕を持っているので、十分自分を手捕りに出来ると、自信しつつあるのを見て取った。 平馬は、敵の激しい目を、ニタリと冷笑で受けていた。 闇太郎の背は、ますます丸まって来た。 足の構えは、 鰐足 ( わにあし )になった。 目は 爛々 ( らんらん )ときらめき全身に強烈な、兇暴の気が漲った。 まるで、 狼 ( おおかみ )が、いけ 牲 ( にえ )に最初の一撃を与えようとして、牙を現し、逆毛を荒立てたかのようである。 彼の息は、押え難く、 荒 ( あら )らいだ。 相手の武士は、じいっと、突っ立ったまま、 殆 ( ほと )んど、身構えを直そうともせず、ただ、 何時 ( いつ )の間にか、腰から抜いた扇子を、 右手 ( めて )に握って、突き出すようにしただけだった。 「ほほう、感心に、 鉄壁微塵 ( てっぺきみじん )と、突っ込んで来る覚悟を 極 ( き )めたな!」 と、苦笑いのような調子でいって、 「なかなか 凄 ( すご )い度胸だの。 それに、普通の修業では、到り得ない、必殺の業も、得ているようだ。 鰐足に踏ん張った。 脚部に、跳躍の気勢が現れたが、直ぐに失われた。 ある感嘆と、好奇心とが、 仄 ( ほの )めいて来ていた。 武士は、カラカラと笑った。 「いや、大きにそうかも知れぬ。 実は拙者、貴様のその、 突拍子 ( とっぴょうし )もない度胸が、惜しくなったのだ。 それに、貴様の、必死必殺の気組の底には、ただ喧嘩慣れた、 無頼漢 ( ならずもの )には、 応 ( ふさ )わしからぬ、剣気が 蔵 ( かく )されているような気がする。 貴様、何か、いわく因縁のあるものと睨んだ。 一たい、名前は何と言う?」 この言葉の間に、二人の間の殺気は、自から 銷沈 ( しょうちん )した。 闇太郎の姿は、静かな立ち姿に変り、武士の 扇子 ( せんす )は、下げられた。 「この場を、見遁してくれるというのは、有がてえが、人の名を聴くんなら、自分から名乗るが、礼儀でしょうぜ」 武士は、白い歯を見せて微笑した。 「成る程、それも理屈だな。 それなら申そうが、拙者は、独創天心流を 聊 ( いささ )か修得した、門倉平馬という者だ」 「独創天心流」 と、闇太郎は 肯首 ( うな )ずいて、 「それでは、例の、御蔵前組屋敷近所の、脇田さんの御門人か?」 「うん、今日まではなあ、今日からは、自流で立とうとする、門倉平馬だ。 それは 兎 ( と )に 角 ( かく )、貴様こそ、わが名を名乗ったら、名乗るがよいではないか?」 「あっしは、世間で、闇太郎と言ってくれている、妙な人間さ」 「ほう。 貴様が、名代の闇太郎か!」 門倉平馬の物に動ぜぬ、不敵な瞳にも、ありありと、 驚愕 ( きょうがく )の色が漲るのだった。 門倉平馬は、闇太郎という名乗りを聴くと、ますます好奇心に燃えて来たらしく、闇を通して、ためつ、すかしつするように、相手を見て、またも、呻くように呟いた。 「ふうん、貴様が例の闇太郎か! 大名、富豪の、どんな厳重な 緊 ( しま )りさえも 呪文 ( じゅもん )で出入りするかのように、自由に出没すると言う、 稀代 ( きたい )の賊と言うのは、貴様か?」 闇太郎は、 飄然 ( ひょうぜん )として笑うのだった。 物を盗むにゃあ、これで相当に、苦労が要るものですよ。 誰だって、盗ませるために、 蓄 ( たくわ )えている奴もありませんからね」 そして、ニタリとして、 「第一、今夜のように、捕り方の五十人や百人は、わけなく潜って抜けられても、お前さんのような強敵に、行手を塞がれるときも、ありますからね」 「強敵に、出会ったと言っても、矢張りその敵に、敵意を失わせるだけの、秘術を知っているのだから、いよいよ 以 ( もっ )て妙な奴だ。 成る程、ふっと噂ばなしを、小耳にはさんだのを思い出すが、貴様も元は、武家出だそうだな? 剣術は、何処で習った?」 と、平馬は最早、全く、害意のない調子で訊ねかける。 「 御酔狂 ( ごすいきょう )も、いい加減になさいましよ。 人間一度染ったら、もう二度と元の白地にゃあ、なれねえものなんだ。 旦那も、そんな仏くさい事をいうようじゃあ、なかなか一流は立て抜けねえね。 「それではどうだ? 拙者ももう、泥棒渡世の足を洗えの、なんのとは、申すまい。 その代りせめて 今宵 ( こよい )だけでも、拙者が連れてまいろうとする所で語り明かさぬか? その位なことは、 諾 ( うべな )ってもいいだろう。 いくらか、義理がある 筈 ( はず )だ」 「 真綿 ( まわた )で首と、お 出 ( い )でなすったね」 と、闇太郎は、ちょいと頭へ、手をやるようにして、首をすくめて、 「どうもそうやんわり出られてはそれもいやだとも、言えませんね。 ようがす、お供を致しやしょう」 「早速、承引してくれて、嬉しい」 と、平馬は、 蟠 ( わだかま )りなく言って、 「では、こう参れ」 彼は先に立って、スタスタと 和泉橋 ( いずみばし )の方を向いて、暗い柳原河岸を、歩き出した。 懐手 ( ふところで )で、その後に続く、吉原冠りの闇太郎だ。 たまさかに 一座はすれど 忍ぶ仲 晴れて 顔さえ 見交わさず まぎらかそうと 自棄 ( やけ )で飲む いっそしんきな 茶碗酒 雪になりそな 夜の冷え などと、呑気そうな、 隆達 ( りゅうたつ )くずしが、しんしんと、 更 ( ふ )け渡るあたりの静けさを、寂しく破るのだった。 和泉橋の角まで行くと、橋詰めの火の番所。 それを突きつけるようにしてじっと、二人連れを透して見る。 まあしっかり、役目をするがいい」 と、いい捨てて相変らずの雪駄の音を、のんびりと響かせて、遠ざかって行く平馬であった。 何気なく、するりと抜けて、歩んで行く、闇太郎の、肩越しに追い抜きながら、 「隆達くずしでもあるまいぜ、あの小屋の中に、鍋焼きを 啜 ( すす )っていた人数は、七、八人。 彼奴 ( きゃつ )らが、十手を振って向って来れば、一度あずかった貴様の 身体 ( からだ )だ。 役にも立たぬ殺生をせねばならなかった、拙者の立場。 松枝町の角に、なまこ塀の、四角四面の屋敷。 門は地味な 衡門 ( かぶきもん )。 それが当節飛ぶ鳥を落す、将軍 寵姫 ( ちょうき )の 外戚 ( がいせき )、土部三斎の住居であった。 「連れは、拙者、知り合いの者だ」 と、言い残して、闇太郎を導いたのが、脇玄関。 「お遅いお訪ねでございますな」 と、顔見知りらしい若侍。 平馬から、 訝 ( いぶか )しい 服装 ( いでたち )で、のっそりと後に立った、闇太郎へと、目を走らせる。 「遅なわって、相済まぬが、平馬折入ってお願いもござるし、 且 ( かつ )は、是非とも御目通りいたさせたい人間を拾いましたで、 枉 ( ま )げて 御面謁 ( ごめんえつ )が願いたいと、 仰 ( おお )せ入れ下さい」 若侍は、 「まだ、 御寝 ( ぎょしん )にはなりません様子、とにかく御来訪、お伝えだけは、申上げることにいたしましょう」 と、奥にはいる。 闇太郎は、懐ろ手から、手こそ出したが、その両手を前でちょっきり結びにした、 平絎 ( ひらぐけ )の間に挟んで、じろじろとあたりを眺めまわすようにしながら、 「成る程、噂には聞いていたが、土部隠居。 狭いが、豪勢な住み方をしていやあがるな。 頭こそ丸めて、斎号をば名乗って居れ、六十に手が届いているのに、 赭 ( あか )ら顔。 眉も黒く、目は細く鋭く、ぶ厚い唇も、つやつやして、でっぷりと肉づいて、憎らしいまでの 壮々 ( わかわか )しさが手足の先まで溢れているような老人だ。 黒の 十徳 ( じっとく )に、 黄八丈 ( きはちじょう )の着付け、紫 綸子 ( りんず )の厚い 褥 ( しとね )の上に坐って、 左手 ( ゆんで )の 掌 ( たなそこ )に、処女の血のように真赤に透き通る、 径 ( わたり )五分程の、 燦 ( きら )めく 珠玉 ( たま )を乗せて、明るい灯火にかざすように、ためつ、すがめつ、眺め入っているのであった。 若侍が、襖の外まで来て、うずくまると、その 気配 ( けはい )に、 慌 ( あわ )てて、珠玉を、手の中に握り匿したが、 「誰じゃ? 何用じゃ?」 「わたくしでござります。 あちらに待たせて置け」 そう命じると、三斎、 掌 ( て )の中の珠玉を、黄な、拭き革で、丁寧に清めて、幾重にも真綿で包み、小さな青色の箱に納め、更に、三重の桐箱に入れると、今度は、取り散らかっていた箱類を、重そうな 扉 ( と )を持った戸棚にしまって、錠を下ろし、灯を消して、さてやっと、起ち上るのであった。 土部三斎が出て行ったのは、彼の 何時 ( いつ )もの書斎に続いた、 一間 ( ひとま )だった。 床には、彼の風雅癖を思わせて、 明人 ( みんびと ) 仇英 ( きゅうえい )の、 豊麗 ( ほうれい )な 孔雀 ( くじゃく )の、 極彩色 ( ごくさいしき )大幅が掛けられ、わざと花を生けない花瓶は、 宋 ( そう )代の磁だった。 既に敷かれてあった、床前の白綸子の 褥 ( しとね )に僧形の三斎は、 無手 ( むず )と坐って、 会釈 ( えしゃく )も無く、 閾際 ( しきいぎわ )に遠慮深く坐った平馬と、その傍に、膝こそ揃えているが、のほほんと、目も伏せていない、町人体の未知の若者とを 見較 ( みくら )べるようにした。 彼の目は相変らず、薄寒そうに膝を揃えて坐った、粋な格子縞の若者に、鋭く注がれたままだ。 平馬は、権門の前に、別に、礼譲を守ろうともせぬ連れの方に、責めるように目を向けて、 「これ、 御挨拶 ( ごあいさつ )を申し上げろ。 土部三斎さまに、渡らせられる」 闇太郎は、片手を畳に下ろしただけで、さも懇意そうに、三斎隠居の顔を見上げるのだった。 「成る程、これまで世間の噂で、御中年に長崎奉行をなすって、たんまりお 儲 ( もう )けになった上、今じゃあ、御息女を 公方 ( くぼう )さまの、 御妾 ( おめかけ )に、差し出しなすったとかで、いよいよ天下の切れ者、土部三斎さまの名を聴けば、大老、老中も 怖 ( お )じ 気 ( け )を振うとかいうことですが、お目に掛って見りゃ、あっし達でもお 交際 ( つきあい )が出来ねえでもねえニコニコした御隠居さん。 今、門倉の平馬さんが、お引き合せになった通り、あっしは世間で、闇太郎と、ケチな 渾名 ( あだな )で通っている、昼日中、大手を振っては、歩けねえ人間でござんす。 それでよかったら、これから先、お見捨てなくお願いいたしやす」 三斎は、ますます鋭い凝視を、 飄乎 ( ひょうこ )たる面上に、注がざるを得ない。 土部三斎は、これまでの六十年に、実に、さまざまな人間を見て来ているのだった。 しかし彼は、今目の前に見る江戸名打ての、大賊のような自他にこだわらず、何時も、悠々として、南山を眺め続けているような、自得の風格に染っている 下郎 ( げろう )に、会ったことはないのだった。 三斎は、しげしげと、闇太郎を見詰め続けたが、相手は例によって、膝を揃えて、坐ったまま、片手で 顎 ( あご )を撫で上げながら、天井に目を向けて、平気な顔だ。 三斎は、日頃、自分の前へ出ると、いやに 阿諛 ( あゆ )の色を見せたり、不安の挙動を示したりするような、人間ばかり見て来ているので、闇太郎のこの冷々とした物腰に、一層、心を惹かれるらしかった。 御隠居さんだって、覚えがおありなさるでしょうが、お互に、若え頃娘っ子に思いつくと、どうしても、物にしてえ、物にしてえで、寝つかれねえ。 あれと同じことさ。 因果な根性で、自分でも 愕 ( おどろ )いていやすよ」 と、ぬけぬけと並べる盗賊の、赧らめもせぬ 面魂 ( つらだましい )を、三斎隠居は、まんじりともせず眺めたまま、 「しかし世間では、貴様のことを、義賊の、 侠賊 ( きょうぞく )のと、いっているそうだが、本当にそうした、慈悲、善根も積んでいるかの?」 「冗談 仰言 ( おっしゃ )っちゃいけません。 泥棒に、慈悲、善根なんてものが、ある筈がありますものか。 ただ、片一方にゃあ、 黄金 ( かね )や、宝物が山程あって、片一方じゃ、あすの朝の、一握りの 塩噌 ( えんそ )にも困っている。 譬 ( たと )えば、こちらさんのような御大家から、ものの百両と ものして出て、いい気持になっているとき、そんな貧乏人の嘆きが耳にへえりゃあ、百両の中から、一両ぐれえは、分けてやるのが、誰しもの人情でしょう」 「わしにも、貴様の気持は、いくらか解るようだ。 是非に欲しいと思い込んだら、手に入れぬ中は、 目蓋 ( まぶた )も合わぬというような気持は誰にもある」 三斎隠居は、自分の考えているだけのことを、どんな人間の前でも、ずばずばいってのける、この不敵な盗賊と対坐している間に、ついぞ覚えない、胸の開きをさえ、感じて来るのだった。 闇太郎は、きょときょとした目で、相手を見た。 正直に申せば、わしだとて、そう言う根性は、無いとも言われぬかも知れぬ。 まそっと詳しく、盗みの話をしてくれまいか。 とにかく、 一盞 ( いっさん )つかわそう」 と、言って、軽く手を打つのだった。 深夜ではあったが、前髪の若小姓と、 紫矢絣 ( むらさきやがすり )に、立矢の字の侍女たちが、盃盤を 齎 ( もたら )して来た。 三斎隠居は、小姓一人を残して、他の者を去らせると、平馬と闇太郎とに、酒盃を勧めるのだった。 闇太郎は、隠居の言葉までもなく、すっかり 寛 ( くつろ )ぎきった態度を見せていた。 「ごめんなすって、おくんなせえ。 門倉平馬は、苦々しげ。 彼は相変らず、きちんと坐って、三斎隠居から渡された酒盃を、口に運ぶのさえ、遠慮しているように見えた。 隠居よりも闇太郎が、口を出した。 「平馬さん、土部の御隠居さまは、いって見りゃあ、 公方 ( くぼう )さまの御親類、当時、飛ぶ鳥も落す 勢力 ( いきおい )かも知れないが、こんな夜更けに、あっしのようなお 探 ( たず )ね者の泥棒風情を、一緒にお目通りまで、連れて来る程の、御懇意な仲でしょう。 だのにあんたが、そんなにしゃっちょこばっていなすっちゃあ、初めてのあっしが、どうにもならねえ」 「 如何 ( いか )にも、闇太郎が申す通りだ」 と、三斎は平馬の方に目をやって、 「そういえば門倉、この 深更 ( しんこう )に、何で、わざわざ訪ねてまいったのだ?」 門倉平馬は、食卓から 退 ( さが )るように、畳に両手を下ろした。 「へえ、平馬さんは初下りの雪之丞と、そんな仲でござんしたかい?」 平馬は、闇太郎を 顧 ( かえり )みた。 平馬の申す男と、中村雪之丞と、真に同一人であるのであろうか?」 「お言葉ではござりますが、 紛 ( まが )いもなく、女形雪之丞、脇田一松斎の 愛弟子 ( まなでし )に、相違ござりませぬ」 と、門倉平馬は、キッパリといったが、その調子には、明らかに、憎悪が 籠 ( こ )められていた。 道理で、素晴らしい 気息 ( いき )だと思った。 しかし、懐剣一本で斬り返されて、どじを踏んでしまったので見ると、一松斎さんが、この男に、奥義を譲らなかったのも、 流石 ( さすが )目があるというもんだ。 闇太郎は、彼独特の、闇を見通す程の、鋭敏な心の目で、一切を見抜いてしまうと、門倉平馬の後について、三斎屋敷へなぞ、はいり込んでしまった自分が、身に汚れでもついたように、悔いられて来るのだった。 だがお蔭で、要害きびしいなまこ塀、土部三斎の、住居の中の秘密も解った。 聞きゃあ、この隠居、長崎奉行の頃から、よくねえ事ばかり重ねて、いまの 暴富 ( ぼうふ )を積んだのだと言う。 貴様のような、珍しい身の上の人間から、いろいろ話も聴きたい故、もう少し 喋舌 ( しゃべ )って行け。 三斎は、一度、腰を上げかけた闇太郎が、また坐り直して飲み出したので、上機嫌だった。 「実は、闇太郎、わしも、役儀は退いているといっても、矢張り、江戸に住んで、公儀の御恩を受けている身体だ。 貴様のような人間が、屋敷にはいって来たのを、そのままにして置くということも、ちと、出来難いのじゃ。 だが、平馬もいうたであろうが、わしには、妙な望みがあって、この世の中で、一芸一能に秀れた者に、交わりを求めたいと、かねがね願っているのだ。 仮令 ( たとい )泥棒にもせよ、貴様程の奴が、姿を現してくれたのだから、一概に 野暮 ( やぼ )な業もせぬつもりだ。 こう申したとて、貴様を 威 ( おど )そうとする気持ではない。 だから、まあ、出来るだけ、この近所へは足踏みをしねえことに、いたしやしょうよ」 「ところがわしは、何となく、貴様が好ましくなって来たよ」 と、老人は、手にした 酒盃 ( さかずき )をさしてやって、 「何の泥棒の、盗賊のというと、聞えが悪いが、忍びの業は、立派に武士の、表芸の一つ。 音無く 天井 ( てんじょう )を走るだけでも、その業を申し立てればお取り立てになる程のものだ。 貴様も、つまらない遠慮を抜きにして、この家へだけは、一芸の達者として、威張って出入りするがいい」 闇太郎は、礼儀にこだわらず、三斎隠居に 直 ( じ )かに、酒盃を返しながら、きらりと鋭い目で、相手を見上げて、 「どうも恐れ入った、御懇志のお言葉ですが、御隠居さん、ざっくばらんにいって、おめえさんは、このあっしを、どんな時に、役に立てようとなさるんですね?」 三斎隠居は、ぎょっとしたように、闇太郎を見返したが、その目を 外 ( そ )らして、苦が笑いした。 この調子では、この奴、隠居の首根っこに食い下って、行く行く、どんな大それた考えを起すかも知れない。 丁度 ( ちょうど )幸い、この屋敷の間近に、道場を立てるにはもってこいの空地がある。 早速そこに、脇田道場に、勝るとも劣らぬ 道場 ( やつ )を、建てて遣わそう。 その代り平馬、わしの一身を、身に替えて守ってくれねばならぬぞ」 三斎隠居、どんな場合にも、交換条件を、口にせずにはいられぬ老人だ。 立派過ぎる程の武門に老いながら、とかく、商取引を忘れられない気性だ。 平馬、この男も、ぬからぬ人物。 直ぐにその場に両手をついて、 「申すまでもござりませぬ。 いつか、白んで来たようだ。 三斎隠居も、もう闇太郎を、強いて引き止めようとはしなかった。 だがそれにしても、あまり危ないことは、せぬがよいぞ」 と、言って、振り袖小姓に、手箱を持って来させると、 二十五両 ( きりもち )包を、一つ、ずしりと膝近く投げてやった。 が、闇太郎は、押し返した。 まあ、お預かりになって、置いて下せえ。 「ああいえば、こういう。 闇太郎は、晩秋の暁け方の 巷 ( ちまた )を行く。 乳色の朝霧が、細い 巷路 ( こうじ )を、這い寄るように、流れて来る。 まだ人通りは無い。 何処もここもが、しいんとした静寂に蔽われて、早起きの、豆腐屋の腰高障子に、ぼんやり、灯影が見えるだけだ。 持って生れた、性分で、安心な方より、危険な方へ、爪先を向けたいが 病 ( やま )い。 昨夜、捕り手に囲まれた、柳原河岸を、目指して、例の鼻唄で、ぶらりぶらり歩いてゆく。 「とっつぁん、 睡 ( ねむ )いだろうが、一本つけてくれ」 爺さんは、 頷 ( うなず )いて、 銅壺 ( どうこ )に、 燗瓶 ( かんびん )を放り込む。 大捕物がありやしてね」 と、老人は、水ッ 涕 ( ぱな )を 啜 ( すす )って、目を輝かして、 「といったって、手も足もないような手先衆が、翼の生えている大泥棒を追っかけたんですから、捕まりっこはありませんよ。 猿若町三座の中でも、 結城 ( ゆうき )孫三郎あやつりの常小屋の真向うの中村座は、江戸随一、 撰 ( え )りすぐりの名優を座付にして、不断の大入りを誇っていたのが、物の盛衰は理外の理、この春ごろから狂言の立て方が時好と妙にちぐはぐになって、ともすれば、軒並のほかの小屋から 圧 ( お )され勝ちに見えて来た。 ことさら、気負った盆興行が、大の不入り、そこで座元の策戦の秘術をつくして、この大切な顔見世月には、当時大坂でめきめきと売り出している、 門閥 ( もんばつ )外の中村菊之丞一座を招き、これに、座付の若手を加えただけで、思い切った興行ぶりを見せようと試みたわけであった。 菊之丞一座といっても、見込んでいるのは、艶名を 謳 ( うた )われている 女形 ( おやま )雪之丞の舞台で、それゆえ、出し物も、もっぱらこの 青年俳優 ( わかおやま )の芯に出来るような台本が選ばれた。 今度連中を作る奴があったら、一生仲間づきあいをしてやらねえぞ!」 なぞと、気負いな 啖呵 ( たんか )を切る人達であるが、 「何でも、中村菊之丞一座というのは、 上方 ( かみがた )で、 遠国 ( おんごく )すじの田舎まわりをしていた 緞帳 ( どんちょう )だったのが、腕一本で大坂を八丁荒しした奴等だということだ。 おいらあ、一てえに、役者、芸人が家柄の、門地のと、血すじ、芸すじばかり威張り合って、一家一門でねえことには、どんな腕があっても、てんから馬鹿にするのが、 癪 ( しゃく )にさわってならなかったんだ。 江戸っ子は、強きをくじき、弱きを助けるが身上ですわ。 あたしたちも、及ばずながら一生懸命駆けてあるきますから、うんと賑やかに蓋をあけさせるようにしてやって下さいましよ」 そんな風に、たのまれもせぬのに、血道を上げる男女もあるのであった。 そして、とうとう、初日が来た。 座の前には、二丁目の通りに、華やかに 幟 ( のぼり )が立ちならび、積み樽は、新川すじから、あとからあとから積み立てられ、時節の花の黄菊白菊が植込まれて、美々しげな看板が、人目をそばだてさせる。 暁方 ( あけがた )から今日の観劇をたのしみに、 重詰 ( じゅうづめ )を持たせて家を出るのは山の手の芝居ずきだ。 かごで、舟で、 徒歩 ( かち )で、江戸中から 群 ( むれ )て来た老若、男女で、だんまりの場が開くころには、広大な中村座の 土間桟敷 ( どまさじき )、もはや一ぱいにみたされているのであった。 初日早々、父親の 仇敵 ( かたき )どもの、最上位に坐して、あらゆる便宜をはからってやった上、最後に、松浦屋 闕所 ( けっしょ )、追放の裁断を下した長崎奉行、土部駿河守の後身、三斎隠居一門の、華々しい見物があるということを知った雪之丞、いかに心を静めようとしても、さすがに、その朝の楽屋入りは、気軽くは出来ないのだった。 「重ねて言うにも及ぶまいが、今日は、ことさら、胸を静めて舞台を踏まねばなりませぬぞ」 師匠は、それだけ言って、例の端然としたすがたで、膝の上にひろげた書き抜きに、目を落してしまった。 雪之丞は、やがて、菊之丞と一緒に、中村座を指して出かけた。 初下りの上方役者の、楽屋入りを見ようとする、若女房や、娘たちが、狭い道の両側に立ち並んで、目ひき袖ひき、かまびすしくしゃべり立てている。 そして、彼女等の視線は、あからめもせず、半開きにした銀扇で、横がおを 蔽 ( かく )すようにした雪之丞の、白く匂う 芙蓉 ( ふよう )の花のようなおもばせにそそがれているのだ。 食い入るようにみつめながら、彼女等は 囁 ( ささや )き合う。 いつもの彼であれば、芸人 冥利 ( みょうり )、 讃嘆 ( さんたん )のささやきを呟いてくれる、そうした人たちの方へ、礼ごころの 一瞥 ( いちべつ )はあたえたかも知れない。 が、彼の胸は、土部三斎で、一ぱいだ。 さもなくて、心が散り、とんでもないことをしだしますと、第一、師匠にすみませぬ。 彼は、楽屋入りをすました。 師匠と並んだ部屋の、鏡の前にすわって、 羽二重 ( はぶたえ )を貼り、 牡丹刷毛 ( ぼたんばけ )をとり上げる。 いくらか、心が澄んで来た。 将門 ( まさかど )の遺した姫ぎみ滝夜叉が、序幕のだんまりには、女賊お滝の、金銀 繍 ( ぬ )い分けの、よてん姿、あらゆる幻怪美をつくした扮装で現れるわけであった。 開幕を知らせる拍子木は、廊下をすぎ、舞台の方では、にぎわしい 囃子 ( はやし )の響きが、華やかに波立ちはじめていた。 雪之丞は、心で、手を合せた。 江戸下り初舞台、初日の日に、早くも 怨敵 ( おんてき )の一人を引き合せて 呉 ( く )れようとする運命に対して…… 幻惑的 ( げんわくてき )な舞台は、二度開いて、二度幕が下りた。 雪之丞は、生れてはじめてといってもいい程、激烈、熱心な 喝采 ( かっさい )を浴びることが出来た。 これまで 観 ( み )なれ、聴き慣れた、 科白 ( せりふ )、仕ぐさとは、全く類を異にした、異色ある演技に魅惑された江戸の観客たちは、最初から好奇心や、愛情を抱いて迎えたものは 勿論 ( もちろん )、何を、上方の 緞帳 ( どんちょう )役者がと、高をくくっていた人達までも迫力のある魔術のために陶酔境に引き込まれて、われを忘れて、手を拍ち、声を揚げずにはいられなかった。 「花むら屋!」 と、いう、聴きつけぬ屋号は、江戸ッ子たちの、歯切れのいい口調で、嵐のように投げかけられるのであった。 楽屋に戻ると、あたりの者は、目を輝かして、菊之丞と、その愛弟子とに、心からの祝辞を述べずにはいられなかった。 「親方、これで、いよいよ日本一の折紙がついたわけでございます」 「負けず嫌いの江戸の人達が、あんなに夢中になっての讃め言葉、わたし達は、只、もう涙がこぼれました」 と、弟子どもの中には、ほんとうに、涙ぐんでいるものさえあった。 雪之丞も、勿論ホッとした。 これで、長年育ててくれた恩師に対する、報恩の万分の一を果したと思うと、肩の重荷が、だんだん下りてゆく気がするのだった。 しかし、彼は、言い難い、不安に、一方では襲われている。 胸をとどろかせ、心をおどらして、今日こそ、その 生面 ( いきづら )が見られると、待ちこがれている土部三斎の一行が、二幕目が下りるころにも、場内にあらわれて来ないのだ。 東の 桟敷 ( さじき )に、五間、ぶっとおして、 桔梗 ( ききょう )の紋を白く出した、紫の幕を吊ったのが、土部家の席にきまっていたが、もうびっしりと、一ぱいに詰まった見物席の中で、そこだけが、ガラ空きだ。 いうまでもなく、大身、大家の一行、出かけるにも手間が取れようとは、思っても、万一、模様変えになって、今日、その顔を見ることが、出来ないようになると、何となく、大望遂行の、 辻占 ( つじうら )が悪くなるような気がされて、雪之丞、胸が 鬱 ( うっ )してならないのだった。 出場が、知らされて、遊里歓会をかたどった、舞台に出る。 師匠菊之丞が扮する、身を 商賈 ( しょうこ )にやつした藤原治世との色模様となる場面であった。 にぎわしい 下座 ( げざ )の 管絃 ( いとたけ )のひびきの中に、雪之丞は、しっとりと坐りながら、なまめいた 台詞 ( せりふ )を口にしつつ目をちらりと、例の東桟敷の方へと送った。 彼は、その人達の瞳と、自分のそれとが、はっきりと、 真直 ( まっすぐ )に衝突したのを感じた。 そして意識的に、一種媚びを含んだ微笑をすら口元にほのめかして、見せるのだった。 雪之丞の、ほのかな微笑で飾られた、呪いの目は、その桟敷に、とりわけ、一人の 宗匠頭巾 ( そうしょうずきん )の、でっぷりした、黒い 十徳 ( じっとく )すがたの老人と、それに並んで、いくらか、身を 退 ( しざ )らせている、限りなく 艶麗 ( えんれい )な、文金島田の紫勝ちないでたちの女性とを見る。 一目で、雪之丞に、それが、 曾 ( かつ )て長崎で威を張った土部三斎と、当時、 柳営 ( りゅうえい )の大奥で、 公方 ( くぼう )の枕席に 侍 ( はべ )って 寵 ( ちょう )をほしいままにしているという、三斎の末むすめであるのをさとった。 女性が、さも一個の処女らしく、髪のゆいぶり、着付の着方をしているのは、公衆の前に、大奥 風 ( ぶり )のすがたを現すのをはばかってであろう。 その、左右に、 直参髷 ( じきさんまげ )の武家、いずれも中年なのが二人、うしろには、富裕なしかし商略に鋭そうな目付をした、 顴骨 ( かんこつ )の張った 痩身 ( そうしん )の男が控えていた。 すべての目が、讃美と、いつくしみを 漲 ( みなぎ )らしているのに、たった二つの瞳だけが、 嘲 ( あざけ )りとも、怒りとも、いいようのない、きらめきを宿しているのに気がついた。 彼は、そう心にいって、もうその方に注意しなかった。 こないだ、脇田一松斎を久々でおとずれた晩、旧師の口から、あのようないきさつで、師門に後あしで砂を掛けた、例の 門倉平馬 ( かどくらへいま )が、最近、三斎の子土部駿河守家中のために、剣をおしえているということを、聴かされたのを思い出したのだ。 が、雪之丞は、それを余り問題にする必要はない。 平馬の技倆と心構えについては、もう知り抜いているし、また、この昔の兄弟子が、一松斎、孤軒、それに菊之丞をのぞいては、天下の何人も知らぬであろう、彼自身の、一代の大望を知覚しているはずもないのだった。 雪之丞は、それだけを見届けると、もう、ことさら、三斎隠居一行の桟敷に、特別気をくばりはしないのだった。 師匠から、重々言われている通り、たとい、先方から、名乗りかけたとて、舞台の上で一芸をつとめる身が、この場で、相手になることは出来なかった。 況 ( ま )して、当の三斎隠居はじめ、感に 堪 ( た )えたように、うっとりした様子で、こちらの容姿と技芸とに酔っているのである。 雪之丞は、冷たく心に笑って、やがて、専念に、役の 性根 ( しょうね )に 渾身 ( こんしん )を傾け出すことが出来た。 その幕が下りて、顔を拭くか、拭かぬかに、隣の師匠の部屋から、男衆が迎えに来た。 すぐに、出向くと、あらかじめ人を払っていた菊之丞が、 「案じることもいらなんだな」 と、まず、讃めてくれるのだった。 雪之丞は、言い難い涙が、こぼれ落ちそうになるのを抑えながら、師匠の言葉を、うなだれて聴いていた。 菊之丞は、いよいよ、声をひそめて、 「土部三斎、隠居して、ますます 栄耀 ( えいよう )の身となったゆえ、もはや、旧悪が暴露するうれいもないと考えているのであろう、一味の 奴原 ( やつばら )が、われとわれから、そなたの面前に、みにくい顔をさらして見せたも、こりゃ、亡き 父御 ( ててご )の引き合せに相違ない。 心をしずめて、めいめいの面体見おぼえるがよろしかろうよ」 「は、して、まそっと詳しゅう、居並ぶ人々の、順、なりふりをお聴かせ下さりませ」 雪之丞は、乾いた舌で嘆願するのだった。 雪之丞は、夢の場での、優雅な官女の顔を作りながら、ともすれば、心の けんが、外にあらわれるのを、いかに隠すべきかに骨を折るのだった。 心を平らに、狂言の人に、なりおおせねばならぬのじゃ。 口惜 ( くちお )しや、口惜しや、焦熱地獄の苦しみ、生きていがたい。 呪 ( のろ )わしや。 なれど、死ねぬ、死ねぬ。 口惜しゅうて死ねぬ。 いつまでつづくこの世の 苦艱 ( くげん )、焦熱地獄。 その遺書に、書き呪われた人々の中、広海屋をのぞいては、すべて、あの東桟敷、ほこりかな、紫幔幕の特別な場所で、雪之丞の演技を眺めていると、いうのである。 舞台の方では、 山台 ( やまだい )の、笛、太鼓、歌ごえが、美しい朗らかさで鳴りひびきはじめていた。 雪之丞は、山ぐみが、さも 重畳 ( ちょうじょう )として見える、所作舞台へと、間もなく現れた。 揚幕 ( あげまく )が上って、彼は、かけごえに迎えられて、花道をふんで行った。 雪之丞の官女が、花道の七三にかかって、 檜 ( ひ )おうぎをかざしたとき、東桟敷の紫幔幕の下に、そッとつつましく坐った、高島田の美女のひとみに、ありありと、讃嘆のかがやきが漲った。 「ふうむ、見事じゃ」 と、吐息に似たつぶやきが、三斎老人の唇から洩れた。 「何と、所作ぶりも、達者だの」 と、横山が、扇で、手の平を打つようにした。 息女浪路は、横山の方を、満足げにかえりみた。 横山が、その目を捉えて、 「な、浪路どの、あでやかなものでござりますな」 「ほんに、わたくしも、ゾーッと背すじが冷たくなりました」 浪路は、美しい 口唇 ( くちびる )を、いくらか引き曲げるようにして告白した。 雪之丞が、あらわれて、鳴り物も、うた声も一そう 際立 ( きわだ )って聴えて来た。 観客席には、今や、ささやきさえ聴えなくなってしまった。 人々は 固唾 ( かたず )をのみ、瞳を見据えるようにして、見入りつづけるのだった。 その幕がしまると、人々の 咽喉 ( のど )から、喝采のかわりに、深い嘆息が出た。 「いいなあ」 「よかったわねえ」 そうした言葉が、土間でも、廊下でも、いつまでも語りかわされるのだった。 ところが、不思議な現象が浪路の上に起った。 彼女はかなり朗らかな気性で、絶えず微笑を消さないような娘であったが、急にぱったりと黙り込んで、杯にも手を出さなくなってしまった。 「御気分が、お悪くなったのでは?」 と、老女が、気がついたように訊ねた。 浪路が、 勿論 ( もちろん )中心をなす一行のことだ。 茶屋で中休みしている間にも、どうかして気を引き立たせようとこころみるのだったが、しかし、さっぱりその反応は見られなかった。 彼女は、じっとうつむいて、白い手先を、膝の上にみつめたり、ぽうっと遠くを見るような目をしたりしたまま、はかばかしく受け答えもしないのだった。 「 気先 ( きさき )あしければ、立ち戻ろうか?」 三斎がいった。 「いいえ、いいえ」 と急に熱心に、浪路は、かぶりを振った。 だが、浪路の、こうした心の変化の奥底の秘密を、いつかすっかり見抜いていたのが、長崎屋三郎兵衛であった。 上方 ( かみがた )役者にぞっこんまいッてしまったらしいぞ。 ふ、ふ、ふ、もっとも公方のしなび切った肌ばかりじゃあ、物足りないだろうでなあ。 冷たく、独り笑って、やがて 真面目 ( まじめ )な目つきになって、何か考えてみはじめるのだった。 三郎兵衛はもう舞台には、注意を払わなくなった。 こんな折がなかなか二度とあるものではないぞ。 この猛悪な 貪慾漢 ( どんよくかん )は、主家を陥れて、現在の暴富を積んだにもかかわらず、なおこの上の希望として物産 用達 ( ようたし )の御用を、 柳営 ( りゅうえい )から受けたいのだった。 この大望は、三斎父子を背景としている彼にも、なかなかむずかしいものに思われた。 幕府にも手堅い組織があって、私情、自愛では、突破し難い 鉄柵 ( てっさく )が存在していた。 とはいえ、普通ではさすがに、この娘にむかって、そこまで頼むことも出来なかった。 現に、たびたび、三斎から、 「長崎屋、お互に、昔は昔、欲を張ることもいいが、そなたも、そこまでになって見れば、この上は、万事、良いほどに、我意をつつしむ方、身のためだろうぞ」 などと、忠言をうけているのだった。 片一方の役者の方は、これは高が、 陰間 ( かげま )あがりの 女形 ( おやま )。 なんでもありはしないさ。 三郎兵衛のたぐいに取っては、彼自身の慾を遂げるために、どんな毒気を吐き散らして、他人を 蠹毒 ( とどく )しようとも意としないのだ。 只、どこまでも、我慾を果してゆけばよかった。 たとい来世は、地獄の黒炎に魂を焼きこがされようとも……。 彼は、幕が下りると、わざと浪路をわきにして、横山にいいかけた。 「どうでござります。 彼の視線は、冷たく、鋭く、彼女にちらちらと投げつづけられる。 あの娘、まるで 相好 ( そうごう )がかわってしまった。 屈託らしい顔が、急に生き生きとかがやき出した。 ふ、ふ、この三郎兵衛さまの眼光におそれ入ったか? 勿論、三郎兵衛のこの発議を、しりぞける三斎ではない。 彼は異った世界の人間に接触するのが、一ばんのたのしみでもあった。 「おもしろいな。 どこぞで、招いてやろうよ。 浪路、そちにもいい保養であろう」 彼はのんびりした調子でいった。 見る見る、瞳は新しい望みでかがやき、頬には熱い血のいろが上って来た。 つき添いの女中たちも急に、今から、 衣紋 ( えもん )を直し合ったり、囁きを交したりして、一座はもう落ちつきを失って来たようにさえ見えるのだった。 さぞ、さきさまもおよろこびなさるでございましょう」 雪之丞は、しずかにふたたび鏡にむかった。 彼はだが、もう、さき程のように殺気をあらわしてはいなかった。 心は澄み切り、魂はしずもっていた。 彼は呪文のように胸の底で繰り返していた。 大喜利 ( おおぎり )がにぎやかに幕が引かれると、雪之丞は、潮汲みの、 仇 ( あだ )ッぽい扮装のままで、師匠の部屋に行った。 「お目出とうござります」 「お目出とう、御苦労だったの」 とてお互いに、初日をことほぎ合ったあとで、雪之丞、手を突いて、 「さて、わたくしはこれから、お客衆にまねかれまして、柳ばし、川長とやらへまで、顔出しをいたしてまいるつもりでございます。 して、どのような筋のお客さまだな」 菊之丞は、わが愛弟子が、江戸人から歓迎されるのを聴くのが、一ばんうれしいというように目顔に微笑をみなぎらした。 大方、そなたの芸が気に入っての招きであろう。 先方が、そう申すのを断わろうともせず、ふみ入って見ようという、そなたの了見は結構だ。 が、決して、今夜、その場で 暴 ( あ )ら 暴 ( あ )らしゅうしてはなりませぬぞ」 「申すまでもござりませぬ。 雪之丞、必死にて、みずからを、おさえて見るつもりでござります」 雪之丞が、きっぱりそう言うと、 「それそれ、その覚悟が、大事の前には是非とも入用だ。 お預けいたすでござりましょう。 「では、脇田先生よりたまわりましたまもり刀、 今宵 ( こよい )一夜、おあずかり下さりませ」 「たしかにあずかりました。 行って来なさい」 師弟は別れた。 楽屋口から、男衆を供に、役者の出入りに、好奇な目をかがやかして立ちならんでいる女たちの間を抜けて、茶屋の前から 駕籠 ( かご )に乗るのは遠慮して、しばし、夜風が 幟 ( のぼり )をはためかしているあたりをあるく。 そして、雪之丞、やがて、駕籠に揺られて、大川端をさしていそぐのだった。 料亭の、白く、明るい障子は、黒く冷たい大川の夜かぜを防いでいた。 大広間には、朱塗りの燭台が立て並べられて、百目 蝋燭 ( ろうそく )の光が昼をあざむくようだ。 床前に、三斎 父娘 ( おやこ )が控えて、左右には浜川、横山、それに三郎兵衛、芸者、末社も、もうおいおい集まりはじめていた。 幇間 ( ほうかん )遊孝が、額を叩くようにして、 「それは、とのさま方、結構なことでございますな。 それで早速、手配をしまして、三日目の見物は、土地をすぐって押し出すことにいたしました。 そこへ、とのさま方が、あの雪之丞を、柳ばしにお招きくださって、言わば、この土地のものにも、おひき合せ下さろうと言うのは、われわれども、芸人仲間としても、うれしいことでございます」 なぞと、これは、男同士から、心からよろこぶように言うのだった。 浪路は、明らかに眉をひそめた。 彼女の、白魚のような右の指先が、美しい額をおさえる。 まあ、待っていなさいよ。 一座の目は、ことごとく、はいって来ようとする珍客の方をみつめる。 いかなる事にも、物驚きをしないような、 生 ( き )ッ 粋 ( すい )の柳ばし連の、美しい瞳さえ、一度にきらめき輝くのだった。 三郎兵衛は、相変らず、必要な方へだけ視線を走らせる。 どんな 美形連 ( びけいれん )が、こがれ、あこがれて近よりたがっても、お前さんにはかなわないのだからね。 何しろ、 公方 ( くぼう )さまの、お 側女 ( そばめ )なんだ。 大した御身分。 うしろには、お父上ばかりじゃあない、この三郎兵衛という軍師がひかえているんだ。 見つめられて当の浪路は、顔色さえサーッと青ざめて見えるほど、明らかに 昂奮 ( こうふん )して来た。 膝に置いた、白い手先きが、小さな金扇を、ぎゅっとつかみしめて、息ざしが 喘 ( あえ )ぐようだ。 「わざわざおまねきにあずかりまして、何とも 辱 ( かた )じけない儀にござります。 わたくしは大坂よりはるばると、御当地を頼りまいらせて下りました、中村雪之丞、いく久しく 御贔屓 ( ごひいき )、おん引き立てのほど願わしゅう」 「さあさあ、遠慮のう、前へ進め、これへまいれ」 と、三斎老人、例の 気作 ( きさく )な調子で、じかに声をかける。 「 御前 ( ごぜん )は、悪固いことが一ばんおきらい。 さあ、そこの席までおいでなさい」 三郎兵衛が、身を乗り出すようにして迎えた。 頭をもたげた雪之丞、 珠玉 ( たま )のかんばせに、 恒 ( つね )ならず血を上らせているのは、心中にむらむらと燃え立ち渦巻く 憤怨 ( ふんえん )のほむらを、やっとのことでおさえつけているためなのだろうが、しかしよそめには、舞台で眺める濃い化粧の面かげとはちがった、いうにいえぬ 媚 ( こ )びさえ感じられるのだった。 三斎の言葉と、杯とが皮切りで、一同から、讃歎が、雨のように雪之丞の上に降りかかって来る。 一座の酒は、はずんでいた。 三郎兵衛は、どんな太鼓持より気軽な、調子のいい態度で、出来るだけ、雪之丞を浪路に近づけようと、試みるのだった。 雪之丞が、浪路から差された盃を、ゆすいで返そうとするのを、わざと、その 儘 ( まま )、もとに納めさせたのも、彼だった。 「この頃、江戸の 流行 ( はやり )で、そなたのような秀れた芸道の人が、口にあてた盃の、お客が持ち帰るのが、慣わしとなっている。 そなたも、御息女さまに、お願いして、そのお盃を、お持ち帰りを願うがよい」 なぞと、いったのは、何事も心の中を、口に出せぬ浪路の、胸のうちを、代っていってやったまでなのだ。 浪路は、嬉しさを 強 ( しい )てかくすようにして、懐紙を出して、小さな 猪口 ( ちょく )を包み、大事そうに帯の間にしまった。 太鼓持は、芸者の歌三味線で、持芸を並べたてていた。 雪之丞つつましやかに、江戸前の遊芸を眺めているふりをしていたが、その胸のうちは、まるで、烈風に 煽 ( あお )られる火炎のように渦まき乱れていた。 呪いのほむらは、魂を 灼 ( や )き 焦 ( こが )し、あおりたてた。 早まってはならぬ。 今度の江戸下りは、お師匠さまや、一座のためには大事の場合。 わたくしの恨みを晴らすために、ともかくも花形なぞと、数えられるこのわたしが、血なまぐさい事をしてのけたら、何も彼も、滅茶滅茶だ。 折角 ( せっかく )、向いて来ている江戸の人たちの人気が、そのために一座をすっかり離れるだろう。 わしは、胸を撫で、さすろう。 わたくし事は、人に気づかれぬよう、そっとそっと、ひとりで暗闇で、なし遂げる外はない。 雪之丞は、やっとのことで、自制して、心を落ちつけて、居並ぶ仇敵たちの様子を探ろうとするのだった。 誰は、どんな癖があるか、どのような性格だか、それを知れば知る程、彼の目的は、安全に的確に達せられるであろう。 幇間の芸がすむと、三郎兵衛が、雪之丞にいいかけるのだった。 しかし、彼は 殊更 ( ことさら )、しおらしく頭を下げた。 々 ( びび )、切々たる、哀調は、かすかに弾きすまされた爪びきの 絃 ( いと )の音にからみ合いながら、人々の心を、はかない、やる瀬ない境に引き込んでゆくのであった。 芸者たちは、雪之丞がうたいおわって、頭を下げ、三味線をさし 措 ( お )いたとき、深い吐息をついた。 「加賀ぶしも、ああうたわれると胸を刺されるようだの」 と、通人の三斎がつぶやいた。 それは一座の気持を、代っていいあらわしたものといってもよかった。 雪之丞に対する人々の態度は、ますますいとおしみと、なつかしみに満たされて来た。 あるものはひそかな恋ごころを、またあるものは尊敬の念をすら抱くのであった。 三郎兵衛は、ふと、浪路が、うつむいて、白い細い指先で、こめかみを押えるのを見ると、 隙 ( すか )さず言いかけた。 そして、連れてゆかれたのは、奥深い、丸窓を持った 一間 ( ひとま )だった。 軽い 褥 ( しとね )に、枕もなまめかしく、ほのかな灯かげが、ろうたく 映 ( は )えている。 女中たちは、供の小間使の一人だけを、枕元に残して、 去 ( い )ってしまった。 毒々しい野心に燃えている三郎兵衛を、深く知らぬ、この美女は、ただ、はずかしさと感謝とに一ぱいになるばかりだ。 彼女は、小間使に、朱塗りの鏡台をはこばせて、髪かたちを直させながら、躍る血潮をしずめようと、両手でそっと、乳房のあたりをおさえるのであった。 こちらは、雪之丞、あとからあとから降って来る杯の雨を、しずかにうけながら、心の中に仇敵の一人一人を観察しているのだったが、なるほど、どれを見ても、一ぱしすさまじい面がまえと、胆の太さを持った、なかなかたやすくは行かぬ人々だ。 三斎老人はやはり、芸道の話をしきりにしかけて来るが、その和らかい言葉がふくむ鋭い機鋒は驚くばかりで、浜川旧代官は、 邪智 ( じゃち )深さで随一、横山というのは、 狡猾無比 ( こうかつむひ )、これに、広海屋、長崎屋の毒々しい下品な 智慧 ( ちえ )を加えたら、なるほど、どのような悪事をも、天下の耳目をくらまして、押し切って行えるだろうと思われた。 こうした連中が心を合せて、正直、まっとうに暮して来ていた、父親を 陥穽 ( わな )に 陥 ( おとしい )れ、一家を離散させ、母親を自害させ、限りない苦悩のどん底に投げ入れたのだと思うと、雪之丞は、只、すぐに一刀に斬り殺したのでは、復讐心が満足出来なくなって来るような気がする。 そう考えて、奥歯を噛みしめたとき、ふと三斎の声が、彼の心を引いた。 「あ、そこにおいでのお方さまは只今、少し酔いすぎたと申されまして、風に吹かれておいででございます」 と、女中が言った。 三斎、実は、ひそかに感心いたしおったのだ」 老人がそういうと、座中の人々の間では、一そう感歎の囁きがかわされる。 「脇田門では、一、二を争うものとうけたまわった。 いずれ日を期して、その方面の技も見せて貰いたいな。 女中たちが、二人ばかりで、平馬を探しに出かけたが、間もなくいくらかこめかみのあたりを青くした剣客が、広間にはいって来て、末座に手を突いて、 「中座をいたし、はなはだ失礼つかまつりました。 と、彼のいくらか酔いを帯びて、まるで桜の花びらのように思える面上に、さもなつかしげに笑みが漲った。 「ま、これは、門倉さま、思いがけないところで、お目通りいたしますな」 と、しずかに 挨拶 ( あいさつ )する。 しかし、雪之丞は、別にいかりの気色も見せぬ。 「お言葉でござりますが、年来のなじみと申しましても、拙者と雪之丞とは、道がことなりますので、さまで親しゅうもいたしてはおりませなんだ」 「これさ、そう申すのが、その方のいつもの 癖 ( くせ )だ。 さ、杯をつかわせ」 平馬は、よんどころなげに、杯を干す。 やっと、みんなの注目からのがれることが出来た雪之丞、座を立って、手洗場の方へゆこうとすると、あとから、呼びかけたものがあって、 「太夫」 ふりかえると、昔の松浦屋の手代、今は一ばん恨みの深い長崎屋三郎兵衛だ。 話相手に行って見てはくれまいか?」 三郎兵衛から、息女浪路が、別間で休息しているゆえ、話相手にその部屋を訪れてはくれまいかと、突然、思いがけないことを聞かされた雪之丞。 その刹那、かあーと、全身の血が逆流するのを覚えるのだった。 彼は、顔に、 慇懃 ( いんぎん )な笑みを作って、 「それは、有がたいお言葉ではござりますが、わたくしは、 女形 ( おやま )、たださえ世上の口がうるそうござります。 御女性 ( ごにょしょう )がたばかりの御席へは、かねがねから、お招きをお断わりして居りますので、何分ともに、 御前態 ( ごぜんてい )よろしゅうお詫びを申し上げておいて下さりませ」 三郎兵衛は、うなずいて、 「なる程、そなたの申し分には、道理がある。 そこまで、身を 慎 ( つつし )んでこそ、日本一の芸人と、名を 謳 ( うた )われることも出来よう」 と、さもさも感に堪えたように、いって見せて、一段と声を低くし、 「だが、のう、雪之丞殿。 それは十分、理屈だが、ものにはすべて、裏がある。 相手が 普通 ( かいなで )の娘だとか、後家だとか、いうような者どもなら、それは、そなたの、名のために、断わりをいうもいいであろうなれど、土部三斎様といえば、何分、当時、大江戸で、飛ぶ鳥を落す勢い。 その御威勢の半分は、当の、あの、浪路さまを、大奥にさし出しているからだとさえ、いわれているのじゃ。 相手が土部三斎の娘の、浪路であればこそ、 却 ( かえ )って、ここは、いつもの気持を捨て、 側 ( そば )に近づく用があるかも知れぬ。 わしは、今まで、恨みを晴らすに、太刀、刀を使おうとばかり思うていた。 だが、それでは存分の、念ばらしが出来る 筈 ( はず )がない。 世の中の、噂なぞは、わしには少しも苦にならぬ。 よし、よし、向うから、しかけて来たのを 倖 ( さいわい )、 公方 ( くぼう )の随一の、 寵愛 ( ちょうあい )とかいう、あの浪路とやらを、巧言をもって、たぶらかし、思い切った仕方で、かの三斎めに、先ず第一の、歎きを見せて遣わそう。 何事も大望への道だ。 相手のお方が、御息女さまとあるからは、うっかりお断わりなぞ申上げたら、飛んだ失礼になるところでござりました、お言葉に、何もかも、お 委 ( まか )せ致すでござりましょう」 と低く、低く、腰をかがめるのだった。 雪之丞が、手の裏を返すように、折れて出たのを見ると、三郎兵衛は、ニヤリと猫族に似た白い歯を現して、 「そうじゃ、そうじゃ、そのように物わかりがよう無うては、芸人はなかなか出世がなりませぬ。 ことさら、浪路さまは、今夜こそお 微行 ( しのび )なれ、大奥の御覚え第一、このお方の御機嫌さえ取って置こうなら、どんな 貴 ( とうと )いあたりにも、お召しを受けることも出来よう。 さあ、こう来なさい。 御息女のお小やすみの部屋に、わしが案内をして取らせましょう」 江戸で、物産問屋としては、兎に角、指を折られるまでに、立身をしている身で、自分から 淫 ( いた )ずら事の手引きをしようとする、この三郎兵衛の態度に、雪之丞は堪えがたいいまわしさを覚えて、ほとんど吐き気すら感じて来るのだった。 まあ、何事もまかせて置きなされ」 一歩、一歩、拭き込んだ廊下を、まるで汚物でも撒かれている道を歩かせられるような、いとわしい、やり切れない気持で、雪之丞は、奥まった茶室風の小部屋の方に導かれて行くのだった。 三郎兵衛は、しいんとした小部屋の前まで来ると、軽い咳ばらいをして、 襖 ( ふすま )をあける。 控えの三畳に、つつましく坐った、小間使に、笑がおを見せて、 「御息女さまに、三郎兵衛、まいった由、申し上げて下され」 と、礼儀だけに言って、かまわず、雪之丞の手を引くようにして、小間使のあとからはいって行った。 休息用の、ふさ飾りのついた朱塗り 蒔絵 ( まきえ )の枕は、さすがに、隅の方に押しやって、やや居くずれて、ほのかな灯影に、草双紙の絵をながめていた浪路、三郎兵衛が来たというので、目を上げると、パアッと、白い頬に血を上らせた。 「ま!」 彼女の、紅い唇から、 驚喜 ( きょうき )のつぶやきが、思わず漏れざるを得ない。 閾 ( しきい )うちに膝を突いた三郎兵衛と並んで、そこにしずかにひれ伏しているのは、今日偶然舞台でその姿を一目見てから、ゾーッと身ぶるいの出る程の恋ごころをおぼえてしまった、上方下りの雪之丞その人ではないか! 三郎兵衛は、さも、内輪な、したしげな調子で、親密なまなざしを送りつつ、 「浪路さま、雪之丞が、おつれづれを、おなぐさめいたしたいと申しましてまかり出ました。 上方のめずらしいお話もござりましょう。 お相手おおせつけ下されまし。 さ、雪之丞どの、まそっと、お進みなさるがいい」 雪之丞が目をあげると、その瞳は、熱い、燃えるような視線を感じるのだった。 愛の、 悶 ( もだ )えの、執着の熱線だった。 そして、それは、浪路の魂と肉との 哀訴 ( うったえ )だった。 浪路は、片手を 脇息 ( きょうそく )にかけて、紅唇にほほえみをうかべようとするのだったが、その微笑は口ばたに 硬 ( こわ )ばりついて、かえって、神経的な 痙攣 ( けいれん )をあらわすにすぎなかった。 三郎兵衛は、二人の目が、ピタリと合ったまま、うごかぬのを見ると、チラリと冷たい笑みを見せて、 「では、わしは 彼方 ( むこう )のお座敷でまだお相手をせねばなりませぬゆえ、ゆかせて頂きます。 雪之丞どの、御息女さまは、ようくおたのみいたしましたぞ」 そう、いい捨てると、そのまま姿を消してしまった。 浪路の、白い咽喉から、いくらかかすれたような声が、はじめて洩れる。 「さ、これに、進みや」 雪之丞は、しおらしげに膝をすすめた。 「いそがしいところを、 今宵 ( こよい )は、とんだ目に逢わせましたな」 浪路は、相手に遠慮を忘れさせようとするだけの、心の余裕を持つことが出来はじめた。 彼女は、かねがね、大奥の、口さがない女たちが、宿下りの折々に、 贔屓 ( ひいき )の役者と、ひそかに出逢いをして、日ごろの胸のむすぼれを晴らす、その時のたのしさ、うれしさを聴かされてもいた。 「何でそのようなことが、ござりましょう。 雪之丞は、出来るだけすなおに、浪路と、さかずきを、さしつ押えつするのであった。 しかし、彼に取っては、いかなる美酒の香味も、まるで鉛の熱湯を呑みおろすような気持をあたえるに相違なかった。 浪路は、この ( ろう )たける、しとやかな 優人 ( わざおぎ )と、世情にうとく、色黒な小柄な貴人とを思い比べて見ることさえ、苦しく、やるせなく、心恥かしかった。 「もうそのようなこと、いわずに置いてたも。 雪之丞は、だんだんに酔い染って来るような、浪路を眺めていると、胸苦しさが 募 ( つの )ってゆくばかりだ。 この人はわしからはなれることは出来ぬ。 そう思うと、 自足 ( じそく )のおもいにおのずから、冷たい微笑が、唇を軽くうごかさずには置かぬ。 そのようなこと、いいだして下さるな」 少女の、熱い熱い吐息は、みじんいつわりをまじえていない。 蔑 ( さげ )すみと 呪 ( のろ )いとに充たされた雪之丞の、目にも魂にも、それはよく感じられるのだった。 すると、彼も 亦 ( また )、 多恨 ( たこん )の青春に生きる身ではある。 思わず、美しい浪路から瞳をそむけないではいられない。 この人には、罪も恨みもあるはずがないのだ。 こんなに、こんなに、手先がふるえていられる。 けれども、やがて、彼の激しい熱情がよみがえった。 わしは、こんな気弱いことでどうするのだろう! この人は三斎の娘なのだ! 三斎の分身なのだ。 この人を苦しめるのは、憎い三斎を苦しめることなのだ。 わしはどこまでも、土部一家に 祟 ( たた )らねばならぬ。 この人の身も、魂も、かき裂いてやらねばならぬ。 雪之丞は、父親の、あの悲しみと 憎 ( にくし )みとに燃えた、みじめな最後のすがたを思い出す。 彼は、カーッと、全身が地獄の炎で焼き焦されるような気がした。 父親の、まぼろしの顔が物すさまじく 痙 ( ひ )き 攣 ( つ )るのが、まざまざと見られる。 三郎兵衛がさも 生真面目 ( きまじめ )な様子で現れて、 「浪路さま、御気分がなおりましたら、御かえりの時刻も迫りましたゆえ、お支度をとの、お父上さまからのお言葉でござります」 「あい。 すぐに支度をいたしましょう」 と、つややかな、 鬢 ( びん )のあたりに、そっと手をふれて、浪路が答える。 「お言葉までもござりませぬ。 お門までは是非お送りさせていただきまする」 「門までといわず、ゆるりとお邪魔いたして、かさねて上方の話でも申上げるがよい。 御隠居さま、そなたが、大そう気に入られたようじゃ」 浪路の挙動は、急に生き生きしくなるのだった。 道のちまたの 二もと柳 風にふかれて どちらへなびこ 思うとのごの かたへなびこぞ なぞと、 菅垣 ( すががき )を鼻うたにしながら、やって来たが、これが、常夜灯のおぼろかな光りに、横がおを照されたところで見ると、まぎれもない、大賊闇太郎だ。 江戸中の、目明し、岡ッ引き、この男一人を捕るために、夜に日を次いで 狂奔 ( きょうほん )しているにも 拘 ( かかわ )らず、どこに風がふくかと、相変らずの夜あるきをつづけている彼、しかも、爪先を向けているのが、ついこないだ、門倉平馬に連れられて無理に引き込まれた、松枝町、土部三斎屋敷の方角だった。 闇太郎、弥蔵を解いて、片手で、癖の顎の逆撫でをやりながら、ブツブツと、口に出してつぶやきはじめた。 人をつけ、泥棒こそはしていても、天下にきこえた闇太郎さまさ、まるで 化 ( ばけ )ものあつけえに、物珍しげにあっちから眺めたり、こっちから眺めたり、明け方までつき合せやあがって、あげくの果てが、二十五両包一ツ、えらそうによくも投げてよこしなんぞしやがったな。 そのお礼を、早くしてやらなけりゃあ、闇太郎、腹の虫がおさまらねえや。 どれ、まず表から、ぐるりと拝見に及ぶかな。 なるほど、三斎も変りものだな。 もうおッつけ 丑満 ( うしみつ )だろうに、門内に、お客かごがあって、 供待 ( ともまち )に、灯がついているので見ると、例の手で夜明しの客というわけか。 門倉平馬も、恩人とやらの三斎さんのところへ、とんだ客を連れ込んだものさ。 ふ、ふ、ふ。 闇太郎、盗んだ宝は、一物のこさず、片っぱしから、恵んだり、使ったりしてしまう 性 ( たち )で、新しい施しがしたくなると、どこからか仕入れて来なければならないのだ。 彼の主義として出来る限りは、ふところ手で、楽々と大きな富を慾の熊手で掻き込んで暮しているような相手にしか、手を出さぬことにしているので、その点で、三斎隠居のような人物は、なかなか二人とは見当らぬはずであった。 その軒下づたいに、たちまち 辿 ( たど )りついたのが、こないだ通されたのとは別の、書院仕立ての大きな客間の外だった。 なるほど、こないだ、猿若町を見物するとかいっていたが、今夜、あの雪之丞が、ここに来ているとは、思いもかけなかった。 一芸一能の人間に逢って見るのが楽しみだと、 生意気 ( なまいき )なことをいっていたが、三斎め、妙な道楽を持っていやがるな。 闇太郎は、いつか、盗み本来の目的を忘れてしまったように、中から洩れて来る話しごえにばかり耳を傾けはじめた。 この三斎屋敷に出はいりをするような奴は、きまって、あの隠居の、 髭 ( ひげ )のちりをはらって、何か得をしようと、目論んでいる奴等に、きまっているんだ。 おい雪之丞しっかりしろ。 娘が公方の妾になっていたって、それがなんだ。 全体、芸人なんてもなあ、公方や大名の贔屓をうけたって、何の役にもたたねえものなんだ。 それより、世間一統皆々様の、お引立てにあずからなけりゃならねえのは、頭取の口上できいたってわかるじゃねえか。 却 ( かえ )って、こんな屋敷に出入りなんぞすると、気っぷのいい江戸ッ子たちからは笑われるぜ。 ところでおれはこれからどうしたものか、折角もぐりこんできたこの三斎屋敷、小判の匂いがそこら中にプンプンして、どうにもこうにも 堪 ( た )えられねえが、といって、なんとなく今夜のうちにあの雪之丞の面が一目見てやりたくってならねえ。 それにしても、 上方 ( かみがた )くだりの、あのなまっ白い 女形 ( おやま )がなんだって、おれの気持を、こんなに引付けるのか、宿場女郎のいいぐさじゃねえが、大方これも御縁でござんしょうよ。 闇太郎は、書院づくりの客座敷の軒下を、ついとはなれると、またしても、例の 蝙蝠 ( こうもり )が飛ぶような素早さで、ぐるりと裏庭に廻って、木石の間をかけぬけ、見上げるばかりな大塀の下に来て、そこまでついてきた黒犬さえびっくりするような、身軽さで、声をもかけず塀の上に飛上ると、もうその身は往来におりついた。 おりた瞬間からこの男、どこぞ遊び場のかえりでもあるような、 悠々閑々 ( ゆうゆうかんかん )たる歩きぶりだ。 素袷 ( すあわせ )にやぞうをこしらえて、すたすたと表門の方へと廻っていった。 闇太郎は門中をちらりと覗いてすぎる。 供待ちにはまだ三、四挺の駕籠が残っている。 そら、この辺にすばらしく好い匂いがプンプン残っているじゃあねえか。 と、鼻をひょこつかせるようにしながら、この 磊落 ( らいらく )な大泥棒は、そのままいいほどの間合をおいて、雪之丞の乗物を 跟 ( つ )けはじめた。 駕籠は、早めもせずゆるめもせず、ころ合な速度で、松枝町から 馬喰町 ( ばくろちょう )の方へ東をさしてゆくのだった。 闇太郎は首を振ってつぶやいた。 雪之丞を乗せた駕籠と、それをつける闇太郎とは、しゅうしゅうたる晩秋の夜更けの風が吹きわたっている夜道を、いつか駒形河岸にまで来ているのだった。 闇太郎は、だしぬけに小刻みな早足になって、駕籠のそばまで駆けつけて、わざと息をきりながら、かぶった手拭をとって小腰をかがめ、 「お陸尺、お前さんたちの足の早さにゃびっくりしましたぜ」 だしぬけにいいかけられて、陸尺の足が一度とまる。 後棒が変な奴だというように、眉をひそめて、 「おめえは一体なんだ。 何用だ」 闇太郎は、にこりと笑って見せたが、この男の笑顔には、一種独特な、どんな人間でもひきつけずにはおかない朗かさがあった。 「およびとめもうして済みませんが、実はあっしはこの駕籠の中の太夫さんに逢いたくって、松枝町のお邸の前から 跟 ( つ )けて来たものなんです。 「そりゃあもう、よく御承知の男ですよ。 是非に今夜、お前さんとお話ししたいことがあって、ここまであとをしたってきましたが、迷惑でしょうがほんのちょっとの間、そこまでお付合いが願えませんか」 雪之丞はためらわなかった。 相手が泥棒にしろ、 やくざにしろ、二度まで恩をうけた上、どういうわけか、その後ずっと心から離れぬ面影だ。 それに彼の渡世がら大泥棒につきあっておくのも、いつかは 屹度 ( きっと )芸の上でも役に立とう。 「わたくしもお目にかかりたく思っておりました。 太夫さんのような花やかな渡世をしていなさるお方にゃけえってめずらしいかもしれません。 このさびしい秋の夜更けを、江戸一番の大盗賊と、たった二人で歩いてみるのも一興じゃ。 ほんの 僅少 ( わずか )なものですけれど」 小さく包んだものを、早くも大きな掌に握らせてしまった。 「じゃあ、気をつけてお 出 ( い )でなすって」 「御苦労さん」 そこで駕籠にわかれて、二人連れになった雪之丞、闇太郎。 河岸通りを北へ千束池へほど近い、田圃つづきの方角さして、急ぐでもなく歩きはじめた。 闇太郎はさびしい田圃道に出ると、 「太夫さん、寒かありませんか? この辺も、夏場は蛙がたくさん鳴いて、なかなか風情があるのだが、これからさきは、空っ風の吹き通しで、あまりほめた場所じゃあなくなりますよ」 「いいえ、わたしは先刻も申した通り、賑やかな渡世をしていながら、どうもさびしい性分、ことさら御当地にまいってからは、ただもう御繁昌をながめるだけで、上ずって心がおちつかず困っておりましたところ、このような場所こそ、一番保養になる気がいたします」 「そういってくださりゃあ、あっしも鼻が高けえというものさ。 そら、あすこにこんもりした森があって、そばに小家が二、三軒あるでしょう、あの右のはずれが、あっしの御殿でさあ」 闇太郎は、ひどく上機嫌で、こんなことをいいながら、雪之丞に足許を気をつけさせながら、くだんの一ツ家の方へと、導いてゆくのだった。 いよいよ小家にたどりつく。 建付けのわるい戸を、がたびし開けると、振りかえって、 「いま灯りをつけるから、ちょっと待っておくんなせえ」 と、いった闇太郎、 室内 ( なか )にはいって火鉢を掻きたてて、付木に火をうつすと、すぐに 行灯 ( あんどん )がともされた。 ぱあっと上りはなの一間があかるくなる。 「さあ、どうぞ、おはいり」 雪之丞は長旅にゆきくれた旅人が、野っ原の一ツ家にでもはいってゆく時のような気持で、 「ごめんくださりませ」 と 挨拶 ( あいさつ )して、土間に立つ。 闇太郎は 八端 ( はったん )がらの、あまり大きくない座布団を、雪之丞のために進めた。 「ごらんの通り、さっ風景な住居なんで、おかまいは出来ませんが、そのかわりどんな内緒ごとを大声でしゃべっても、聞く耳もねえ。 あっしはこれでも 堅気 ( かたぎ )一方な 牙彫師 ( げぼりし )というわけで、御覧の通り、次の間は仕事場ですよ」 闇太郎は面白そうに微笑して、 合 ( あい )の 襖 ( ふすま )をあけて見せた。 行灯の灯がさし入る小部屋には、なるほど厚い木地の仕事机、いちいち 鞘 ( さや )をかけた、小形の 鑿 ( のみ )やら、小刀やらが、道具箱のなかにおさまっているのが見えた。 現に机の上には、根付けらしい彫りかけの 象牙 ( ぞうげ )が二つばかり乗さっている。 「あなたは、なんでもお出来になる方と見えますな」 雪之丞がそういうと、闇太郎はいくらか、 きらりとしたような瞳を、一瞬間相手になげて笑いだした。 雪之丞は、苦い、香ばしい茶を、頂いて 服 ( の )んだ。 今夜一晩、飲みたくもない酒を強いられたあとなので、この一碗にまさる美味はないように思われた。 闇太郎は、雪之丞が心おきなく、目の前に坐っているのを見るのが、嬉しくてたまらぬというように見えた。 「それにしても、お前さんが、あっしの身許をしりながら、家まで来てくれた気持は、この闇太郎一生の間わすれられねえだろう」 と、人なつッこい眼付きでいうのだった。 それはそうとして雪之丞さん」 と、闇太郎は、これまでにない 真面目 ( まじめ )な眼つきになって、相手を見詰めて、 「これはあとから、ある人の口から、はっきり聞いた話なのだが、やっぱし、あっしの眼に狂いはなく、脇田先生の道場で、免許皆伝だというじゃあねえか。 いまじゃ、三都で名高けえ、女形のお前さんが免許とりだと聞いちゃあ、誰だって驚かずにはいられめえ。 お前さんも不思議な道楽をもっていなさるね」 「皆伝などとはめっそうな」 と、雪之丞は白い手を振るようにして見せたが、 「一体、わたしの身について、どなたがそのようなことを、もうされておりました」 雪之丞は、我身についた武芸について、世間に評判が立つのは好ましくなかった。 門倉平馬の 告口 ( つげぐち )で、三斎一党にそれを知られてしまったのにもすくなからず当惑を感じたが、しかし、相手方が自分を松浦屋の一子雪太郎の後身とは、すこしも気がついていないのだから、まず警戒する必要はないとして、そうじて 復讐 ( ふくしゅう )というような大事業は、こちらがいつも目立たぬ身でなくては不便だ。 世間の注目があつまればあつまるほど困難だ。 彼は、女形という仮面のもとにかくれて、 専 ( もっぱ )ら 繊弱優美 ( せんじゃくゆうび )を装っていてこそ、どんな、あらあらしい振舞いを蔭でしても、それが自分の 仕業 ( しわざ )だと、一般から目ざされるわけがないのを喜んでいたのに、この闇太郎の耳にさえ、脇田一松斎皆伝の秘密が洩れるようでは、ともすれば、今後の行動に不便が生ずるかもしれぬ。 「どなたからお聞き及びかはしりませぬが、どうぞそのようなことは、お胸におさめておいてくださるよう、 女形 ( おやま )の身で、 竹刀 ( しない )をふるなどということが、世間さまに知れわたりましては、それこそ、 御贔屓 ( ごひいき )の数がへります」 と、重ねていうと、闇太郎は、にこりともせず 瞶 ( みつ )めたまま、 「だがなあ、雪之丞さん。 おれの眼には、お前という人は、舞台の芸も、世の中の人気も、あんまり用のねえ人間のように思われてならねえんだよ」 と、これまでとは違って、ざっくばらんな敬称ぬきの言葉でいいかけるのだった。 「どうし.

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こちら も 抜か ねば 無作法 という もの ネタ

コメント一覧 18• 名無しさん• 2020年06月04日 13:15• 浮いた発言はあっても名言は一切ないね• 名無しさん• 2020年06月04日 13:55• 名無しさん• 2020年06月04日 16:28• 名無しさん• 2020年06月04日 14:12• 名バトルも無ければ名セリフもない歴代年間売り上げ最高バトル漫画ってある意味凄いな• 名無しさん• 2020年06月04日 14:20• セリフではないけど半天狗はしょっちゅうコラされてるな それだけあの演出は使い易いってことなんだけど• 名無しさん• 2020年06月04日 14:32• オネショタの主導権• 名無しさん• 2020年06月04日 15:18• こちらも抜かねば…無作法というもの…• 名無しさん• 2020年06月04日 15:19• ブリーチ とかナルト並の名言があっても良いのに思いつかない• 名無しさん• 2020年06月04日 15:54• 基本的に鬼側に名言あるな• 名無しさん• 2020年06月04日 16:09• 決め台詞的なのがあんまりないよね• 名無しさん• 2020年06月04日 16:18• 主人公の台詞で印象に残っているのは、 「俺は長男だから我慢できたけど次男だったら我慢できなかった」 かな。 長男が家を継ぎ(本家)、兄弟(分家)になにかあったときには長男がすべて背負うという当時の覚悟を端的に表している(分家の社会保障はすべて本家が行う)。 名無しさん• 2020年06月04日 16:22• 記憶に残りやすいセリフ回しは群を抜いてるので充分 多少改変されてても、鬼滅のあのシーンのセリフだな、と分かるだけ名作と言える• 名無しさん• 2020年06月04日 16:49• 「生理的に~」はちょっと俗すぎてアカザらしくないっていうのはわかる そもそもこの言葉自体を知らんキッズは俎上に載る資格はない• 名無しさん• 2020年06月04日 16:52• 名言があればすごいとか中学生みたいでかわいい• 名無しさん• 2020年06月04日 21:17• 名無しさん• 2020年06月04日 20:11• 名言というより迷言• 名無しさん• 2020年06月04日 23:24• 長男だから我慢できたは名言やろ• 名無しさん• 2020年06月08日 03:28• 煉獄さん好きじゃないけど煉獄さんの名言めっちゃかっこよくて好き.

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此方も抜かねば…無作法というもの…とは (コチラモヌカネバブサホウトイウモノとは) [単語記事]

こちら も 抜か ねば 無作法 という もの ネタ

にて連載中の純奇譚「」。 人喰いにを皆殺しにされたと、一生き残るもにされてしまったが、 のを捜しながらが人に戻る方法を探しをする…という、なのハズだが、• 「今そこ気にするか?」と言いたくなるのの転換• 脈絡く奮する登場人物• そもそも言葉のがなんか変 といった理由から、毎週のようにのを滅殺するため、 「」関連の各種ではこういった定句が乱舞している。 そういったや印的な文言のまとめを作ってみました。 会話で使えるかどうかは不明。 ていうか擬音とか混ざってるし。 発言 話数 使用用途 備考 [生殺与奪の権]を他人に握らせるな!! 1話 何かを譲れない時に 当然 [もを]尊重しない 1話 尊重するつもりのない時に わかるよ 1話 同意するとき 2行にして中で強調すると尚良し ッ 2話 人の頭を蹴りで吹き飛ばした時 元は擬音 何なんだ[頭に腕なんか生やして]!! ムッッ 2話 の事態に苛立った時 判断が遅い 鱗左近次 3話 判断の遅さを非難するとき にビンタをしてう みんなにしてやれなかった分まで 全部に 3話 にしてやりたいかへ [鈍い] [弱い] [未熟] そんなものは男ではない 錆 4話 男らしない人を叱るとき [炭治郎] は 凄い子だ…… 鱗左近次 6話 精一杯頑った人へ 7話 変化に耐えられなかった時 死ぬわ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ ここで生き残っても結局死ぬわ 8話 死にそうなとき []?これ []じゃね? 8話 思ってたのと違う時 多分すぐ死にますよは 8話 死にそうなとき 「は」だけでよく使われる よく生きて戻った!!! [女の鮮度]が落ちるだろうがァ!! 沼の 11話 のを食いたい時 冷静になれ よ 沼の 11話 人を宥める時 「よ」だけ抜き出しても使われる はまだじゃないんだよ!! 沼の 11話 不満を訴えるとき 「」をにも二人称にも 使っているあたりが もういい 12話 もうこれ以上会話をしたくない時 口をりつけてから言ってみよう [失っても 失っても] 生きていくしかないです どんなに[打ちのれ]ようと 13話 大きな悲しみに囚われた人へ 私の顔色は悪く見えるか 私の顔はいか? に見えるか? 長く生きられないように見えるか? 死にそうに見えるか? 14話 でであることを示したい時 認の「癇癪」 違う違う違う違う 14話 否定する際 はな!! がいいたいのはな []じゃねえんだ の 豊さん 15話 大事なことをしたい時 な引きから の豊さん わかればいいんだよ わかれば!! の 豊さん 15話 分かってもらえた時 じゃないかその女は しかも醜女だ 史郎 15話 珠世様以外のの女へ [しこめ]…[しこめ]?[醜い]ってことか?が? 15話 何を言われてるか分からない時 [醜女]のはずないだろう!! よく見てみろこの[顔立ち]を 15話 何かを否定したい時 もう少し明るいところで見れくれ 15話 よく見て欲しい時 これ外した[豆子]を一度見てもらいたい!! 15話 よく見て欲しい時 [珠世様]はも[]きっとも[]ぞ 史郎 15話 変わらぬ素らしさを讃えるとき あいつらを囮にしてましょう!! 史郎 話 る提案をする時 冗談です!! 史郎 話 された時 痛い!! いやこれは…かなり痛い!! 話 痛い時 ちょっと申し訳ないけど[手の玉]な!! 申し訳ないけど!! 話 ものを見た時 のはだよ 史郎 19話 知人のさんを褒めるとき いつ死ぬか分からないんだは!! だからして欲しいというわけで!! なんでそんな別のを見るようなで を見てんだ 20話 侮蔑ので見られた時 なんか喋れよ!! 突猛進!! 話 突き進むとき は[殺隊 階級・!! 膝にきてる 恐怖が膝に!! 話 恐怖でうまく立てない時 ギャーーッ 死んでる 急に死んでるよなんなの 話 何かの死体を見たら 痛いなぁ 痛いなぁ 24話 怪がいている時 24話 じゃなきゃ慢できない時 はいちょっと静かにしてください 24話 を黙らせる時 頑れ[炭治郎]! は今までよくやってきた!! はできるだ!! そしても!! これからも!! 折れていても!! が挫けることは絶対にない!! 24話 自分を鼓舞するとき つまらないよ つまらないんだよ 君の書き物は 全てにおいてのようだ 凱の知人 話 駄文を読んだ時 はだ…だ!! 話 に耐えるとき ただし次男じゃダメ の…[血術]は…… 凄いか…… 凱 話 かに褒められた時 …凄かった でも [人を殺した]ことは許さない 話 ある一面は認めてももう一面が 許せない時 [炭治郎]……[守った]よ… が…これ…[命より大事なもの]だって… 言ってたから…… 話 かのために頑った時 が……直接[炭治郎]に話を聞く だからは……引っ込んでろ!! 26話 の大事なものを守るとき 卑劣 極まりない!! 26話 身勝手な暴挙に憤った時 に相手のを 拳で4本折ってから言うと尚良し そういうことするの [を痛めてる時はやめておけ 悪化するぞ!! ] 26話 浅慮な行動を嗜めるとき [悪化]上等!! 今このの愉悦に勝るものし!! 26話 楽しいひと時を享受する時 将来のこともちゃんと考えろ!! 26話 後先考えない人を叱るとき だな… [むきしてる]のに[みたいな] 顔が乗っかってる… 27話 顔と体がな 人を見た時 君の顔に文句はない こじんまりしてでいいんじゃないかと思う!! 27話 で小顔なを褒める時 どういう字を書くんだ!! 27話 でどう書くか分からない時 ついさっきまでロを していた二人のやりとりである そうか… 傷が痛むからできないんだな? 27話 怪人がをやりたくないと ゴネる時 いや いいんだ 痛みを慢できる 度合はだ 権!! に勝つ!! 27話 に宣誓する時 なんだそれは!! 27話 知らない人の名前が 出てきたとき 違う人だ!! 27話 名前を間違えられた時 おまっ! そんな褒めても仕方ねぇぞ!! っ 27話 褒められて照れ臭かった時 いや強くはねぇよ ふざけんなよ 27話 強いと勘違いされた時 いいご身分だな……!!! 27話 に守ったものが の女だったとき のようなはだよ即! 27話 信じていたに裏切られた時 先週まで最高潮だったを 大暴落させる男、。 待ってくれ!! ちょっと待ってくれないか 話 怖くて動けない時 なるべくで言ってみよう が減るぜ!! 話 腕が鳴る時に ほわ ほわ 話 どういえばいいか分からないが 温かい気持ちを感じた時 原文は擬音 そう…[衣]のついたあれでございます 話 丁寧に説明するとき ちなみにのこと 意味のあるなしで言ったら の存在自体意味ねぇんだよ 話 ことに 大事なことを話さない弱へ よくぞ言った之助 []も[人]もみんな仲良くすればいいのに [さん]もそう思いませ 話 いがみ合う人らを見た時 理な話だ []が[人]を[喰らう]限りは 話 決して分かりあえない 両者をして。 とんでもねぇ[炭治郎]だ 29話 がとんでもないことを しでかした時 まっとうな炭治郎が他に いるかのような言い方である こいつらみんなだぜ!! [隊員同士でやりあう]のが 御法度だって知らねえんだ 29話 ものを知らない人がいた時 覚えたての知識でをする 末・之助であった 否定ばっかするんじゃねぇ!! 29話 あれもこれもダメと時 頭突きをしながら言うと尚良し ちょっと時間が かかりすぎじゃない? 累 話 の遅い人へ よ!! []はやれる! [必ず方を守る]から!! 話 怖い人にチクられそうになった時 夫やにられる 者の図 よしわかったァ!! 話 願いを聞き入れる時 で介錯する0. 5前 うるせぇえええ!! うるせぇえええ!! 話 文句が多くて が立った時 のはだ なんじゃああそれぇぇ!! もやりてぇぇ!! てめェェ!! これ以上を[ホワホワ]さすんじゃねぇぇ!! 話 未知の感覚に戸惑った時 ほわほわしてる自覚あったんだ… 何に怒ったのかわからないのが悪いんだよ 累 話 物わかりの悪い人へ 理不尽すぎる いや[]も一生懸命生きてるんだろうけどさ 話 特に悪いことはしてないけど どうしてもものへ こんなことある 話 のことが起きた時 の開始 夢であれ夢であれ夢であれよお願い!! 話 を見たくない時 夢であってくれたなら頑るから 起きた時 [豆子ちゃんの]だったりしたら もう頑る 話 願望を述べる時 も頑る []を[耕し]ます [一反]でも[二反]でも[耕し]てみせる!! 話 心を入れ替えて 面に頑ろうと思った時 ちなみに一反は 約9方 へぐっ・・・・・・!!! 話 恐怖の悲鳴も出なかった時 みたいなとは 口利かないからな!! 話 的に受け付けない人へ そもそも口を利く義理はないし この後返事しちゃうであった わギャッてんだよ わかってんの!! 33話 端から承知のことを 摘された時 止まらない・ ハハハハ!! 何してるん前 33話 滑稽な人へ ・人いないだろ嫌われるよ!! 33話 人の気持ちが分からないへ あのでしかもじゃなぁ・・・ カン 33話 思わぬディスにが立った時 元は擬音 [じいちゃん]が好きだよ!! 36話 「」を軽んじられた時 こんな[の]ならでも殺れるぜ 36話 楽なをする時 炭治郎「」 は安全に出世したいんだよ 36話 安全に出世したい時 [隊はほとんど壊滅状態]だが は[そこそこの一匹倒し]て []するぜ 36話 これからの予定を述べる時 お手本の様な説明ゼ []の菌に汚染されたぜ 危ねぇ所だったァァ 36話 「炭治郎」にされた自分に気付いた時 なぜ数分前ともう違うのか… だって[2本持ってる]もん ウハハハハ!! 36話 優位性を自慢するとき が止まらねぇぞオイ!! 欲しい・・・!! 累 38話 ずっとめていたものに巡り合ったとき はね 自分の役割を理解してないは 生きてるがないと思ってる はどうだ? の役割はなんだ? 累 話 人に相手の役割を説くとき ロールには言ある累くん [炭治郎] [呼吸]だ [息を整えて][ミ様に]なりきるんだ 竈門炭十郎 話 コツを教えるとき ごめん [] 今やらなければ [豆子を守らなけ]れば たとえ[相打ち]になったとしても!! 話 命に代えてでも 使命を果たすとき 私と仲良くするつもりは ないみたい ですね 話 宣告するとき [お嬢さん] あなたは [何人殺しましたか?] 話 相手の罪を量るとき [殺した]のは [5人]よ 話 しらばっくれるとき [お嬢さん]は正しく罰を受けて生まれ変わるのです そうすれば[]になれます 話 罪人を更生のへ導くとき だけはっ当な仁の人である だけは だめ だめ 話 よくないことを諭すとき 顔やさが苦のが このの恐ろしさを増大させている気がする [人を殺した]分だけ [私がお嬢さん]をします [玉をほじくりだ]したり [おを切って内蔵を引き摺り出]したり 話 判決を下すとき [お嬢さんは]ですから [死んだり]しませんし [後遺症は残り]ません]! は嫌われてない 話 受け入れがたい言葉を 否定する時 まず言うことがそれか あぁそれ… [嫌われている]自覚がなかったんですね 余計なことを言ってしまって申し訳ないです 話 言葉のを不用意に振るってしまったことを詫びるとき (ベタ) [さん]のこれは[隊違反]です 話 の問題行動を諌めるとき をかけられたながら言うと尚良し 言ったらどうですか 話 釈明をめるとき (をかけながら面倒な顔を見せるさん) あれは確か[2年前]… 話 順序立てて説明しようとするとき 重ねて言うが、をかけながらのである そんなところから長々と話されても困りますよ 嫌がらせでしょうか 話 長話を遮るとき たしかに首を締められながら長話をされたら堪ったものではない [裁判]の必要などないだろう! [をう]などな[隊違反]! 等のみで対処可! [もろとも]する! 話 沙汰を下すとき これが柱!! ならばが[手に頸をって]やろう よりも手な[血飛]をみせてやるぜ もう手手だ 随 話 執行役のを上げるとき えぇぇ… こんな[子]を[殺して]しまうなんて… 胸が痛むわ 苦しいわ 話 推しが殺されそうなとき あぁ… なんという[みずぼらしい]だ 可哀想に 生まれてきた事自体が可哀想だ 悲鳴嶼行 話 哀の言葉をかけるとき 存在を全否定である 何だっけ あ[のの形] 何て言うんだっけ 時透一浪 話 ぼーっとしているとき 「殺隊を支えているのは柱たちだった」 (話、より) [もしてない]様に は頭痛がしてくるんだが 小内 話 あるべき処置のなされてないことを嘆くとき [] 相変わらずネチネチしてみたい しつこくて素敵 話 ねちっこい人にいたとき 蜜璃さんき [さん] 離れたところにひとり 話 にいたとき [不死さん] また傷が増えたみたい 素敵だわ 話 傷だらけのがセクだったとき [ちゃん] 怒ってるみたい しいわね いいわ 話 らしいが々しい顔を見せたとき もうこの人なんでもいいのでは? ッ 話 な場面で吹き出してしまったとき [善良な]と[悪い]の 区別つかないなら [柱]なんてやめてしまえ!! ] [と豆子]が必ず!! [悲しみの連鎖を断ち切るを振るう]!! 話 話があるとき 開始 が謝れ!! が詫びれ!! にいたのににいたような顔 してんじゃねぇええええ!!! 話 役得っぷりを責め立てるとき とキャッキャキャッキャしてただけのくせに 何をやつれた顔してみせたんだよ して謝れ しろ!! 話 役得っぷりを責め立てるとき 一人につき 二つ二つ 二つついてんだよ すれ違えばいい匂いするし 見てるだけで楽しいじゃろがい!! 話 女体について熱くるとき 「二つ」に疑問を呈するが多数見られたがあれは両手で揉みしだくものだから 二つであると筆者も強くし!! 話 っぷりを全身で表現するとき 5mくらい跳躍しながら言うと尚良し ふがし ふがし 話 憤慨のあまり息を荒げ体温も上昇するとき もとは擬音 はに[]たりしないぜ 話 ぶるとき 全ので言ってみよう に聞いて何か答えが出ると思っているなら は愚かだぜ 話 人の心得違いを摘するとき なんだかわからんが自信のさだ でっ か!! 話 気合を入れ直すとき は子だ いや本当に この[湯くさい]よ かけたら可哀想だよ 話 かすかなで止めをかけるとき []は[人に教える]のが上手かった そして[炭治郎]は[人に教える]のが爆裂的に下手だった 話 技量の違いを端的に表すとき ひでえ ヤッフー!! 話 待ち望んだものがようやく 手に入るとき 鋼鐡柄塚 話 を持って殺しにかかる音 その後炭治郎は一時間 三十七歳に追い回された ぶっ殺してやる この餓!! 人は心が原動だから 心はどこまでも強くなれる!! 降ります!! 話 乗ってるが危険とわかったとき の感の良さ すげぇや!! 見事なだぜ おいらを子にしてくだせぇ!! (?) 話 子入りを志願するとき おいらも!! (?) 話 子入りを志願するとき!! 話 子入りを志願するとき [夢を見ながら]るなんてだよね 魘夢 話 いい死に様をるとき の原動は心だ 精だ 魘夢 話 人の原動について 守護者との のつけどころが同じというのも恐ろしい がしてひとっ飛びですよ なんて [豆子ちゃん]のつま先も濡らさないよ おまかせくださいな 話 に頼れる自分を見せようと意気込むとき 浮かれチ [ツヤツヤのグリ]やるから ホ! 話 とっておきのお宝を譲るとき 可すぎか くだらん… どうせ大したものにはなれないんだ もも 煉の 話 と倦怠により すべてを諦めてしまったとき はとは違う! にはがいる はを信じている! どんなを歩んでも は立なになる! 話 最のを励するとき ムムム 56話 がなかなか起きないとき ムーッ 56話 がちっとも起きないとき ムムーッ ボッ 56話 がどうしても起きないので業を煮やして火をつけたとき たくさんと思うよ たくめんと思うよ 忘れることなんてない どんな時も心は傍にいる だからどうか許してくれ 話 を振り切るとき なんで男なんかが入り込んでやがる クッソが ここに入ってきて良いのは[豆子ちゃん]だけなんだよ 殺すぞ 話 なく侵入した不届き者へ 暖かい… ずっとここにいたい の 話 夢をもえた安を感じたとき [な夢の中]にいたいよね わかるよ も[夢の中に]いたかった… 話 何かにすがる気持ちを否定できないとき [言うはずがい]だろう そんなことを [の]が!! 話 解釈違いでしたとき [] 全然だめだわ 言われないと何もできないの 体性のない子を見たとき [カナヲ]はもの! 胡カナエ 子を褒めるとき いつか[好きな]でもできたら [カナヲ]だって変わるわよ 胡カナエ 心の成長を期待するとき 炭カナは やはりな…[]の[通り]だったわけだ []が[親分]として 申し分なかったというわけだ!! 話 自分の実に実感を感じたとき 須らく伏し!! 崇め讃えよ このを!! 話 偉業を成し遂げるとき [豆子ちゃん]はが守る 話 大事な人を守るとき 守るっ フガフガ プピー 話 大事な人を守る夢を見ているとき 即2 よもやよもやだ 話 まさかの展開に驚くとき [柱]として不なし!! があったら 入りたい!! 話 立場にそぐわぬ失敗をしでかしたとき 命すんじゃねぇ [親分]は[]だ!! わかった!! 話 立場をはっきりさせるとき 時間も余裕もないので返事がな炭治郎 な!! いい考えだ 褒めてやる!! 話 手下の意見を採用するとき 威厳を保ちつつ部下の考えを取り入れる之助はなのでは? つまらねぇ死に方すんな!! 話 手下の命を救ったとき 之助親分かっけえ が死んだら あの人が[人殺し]になってしまう 話 どうしてもない理由があるとき みんなもを刺されたら言ってみよう [の]で[ばいんばいん]して助かったぜ 逆にな 話 的状況が功を成したとき 元気いっぱいだ もひいてねぇ 話 事をするとき 死んでいいと思う!! 話 ろくでなし野郎の命が かかっているとき 助けた後の[] 全部[っと]いてやる!! 話 癪だけど助けなきゃいけないのでせめてもの報いに。 は全を出せていない!!

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